日経サイエンス  2002年10月号

人工心臓で生きる 完全埋め込み型の実力

S.ディトリー(サイエンスライター)

 心不全の患者の心臓を生涯にわたって完全に人工心臓装置に置き換えることは医学の中で最も困難な目標のひとつだった。昨年,この挑戦はきわめて重大な局面を迎えた。いくつかの米国の病院で,人工心臓が臨床試験の初期段階に入ったのだ。

 

 これはアビオコアと呼ばれ,プラスチックとチタンでできたグレープフルーツ大の装置だ。マサチューセッツ州ダンバースのアビオメド(Abiomed)社によって開発された。

 

 アビオコアは患者の体内に完全に埋めこまれる初めての全置換型人工心臓だ。これまでの装置は完全埋め込み型ではなかった。1980年代に有名になったジャービック7型人工心臓では,患者は空気圧縮機と常につながれており,不自由な生活を強いられた。

 

 これに対して,アビオコアは皮膚に穴をあけてチューブや電線をつなぐ必要がない。2001年7月,心臓のポンプ機能が極端に悪化した59歳の元海兵隊員トゥールズ(RobertL. Tools)にこの人工心臓が初めて埋め込まれた。

 

 その後の9カ月間に,外科医たちはさらに6人の患者で機能不全となった心臓をアビオコアに取り替えた。しかし,これら第一陣の試みは成功とも失敗とも断言できない結果となった。

著者

Steve Ditlea

ニューヨークのスパイテン・ダイビルに本拠をおくフリージャーナリスト。1978年から科学技術分野を取材している。

原題名

The Trials of an Artificial Heart(SCIENTIFIC AMERICAN July 2002)

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