日経サイエンス  2002年8月号

動脈硬化がこわい本当の理由

P.リビー(ブリガム・アンド・ウイメンズ病院)

動脈硬化(アテローム性動脈硬化)は心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。心臓や脳を守るには,まず動脈硬化を防ぐことが肝心だ。そこで中高年にとって気がかりなのがコレステロール値。だが,コレステロールの血中濃度が正常だからと言って安心はできない。著者の示すデータによれば,心臓発作を起こした人の半数はコレステロール値に異常がなかったそうだ。では,心臓発作と動脈硬化の関係はいったいどうなっているのか。

従来,動脈硬化が怖ろしいのは,血管内にたまった脂肪の塊(プラーク)が大きくふくれ上がって血流を妨げ,血液が届かなくなった組織や細胞が死ぬからだと言われていた。しかし近年の研究から,プラークそのものが血管を塞ぐ心配よりも,炎症を引き起こしたプラークが破裂して,血栓ができる危険性のほうがはるかに高いことがわかってきた。この現象は必ずしもコレステロール値とは相関しない。

もちろん,高いコレステロール値は危険だが,喫煙,肥満,糖尿病のほか,ある種の感染症など,動脈硬化にはさまざまなリスク要因がある。コレステロール値に問題がない人たちを対象にした検査法の開発も急がれている。(編集部)




再録:別冊日経サイエンス250「『病』のサイエンス」

著者

Peter Libby

ブリガム・アンド・ウイメンズ病院の心臓血管科主任,ハーバード大学医学部教授。カリフォルニア大学サンディエゴ校で学位を取得。定評ある心臓学の教科書『HeartDisease』の共著者。「心臓血管病予防の基本は生活習慣の改善にある」と考え,自らもジョギングに励んでいる。本人の言によれば,スピードよりもやる気が大事。

原題名

Atherosclerosis : The New View(SCIENTIFIC AMERICAN May 2002)

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