
B. ロンボーグ vs. |
S. シュナイダー J. P. ホールドレン J. ボンガーツ T. ラブジョイ |
20年,50年,100年先にも,青い海と緑豊かな自然環境は,私たちに,そして私たちの子どもや孫の世代に残されているのだろうか――。もし残されないとすれば,いま私たちが享受する便利さや快適さを支えている経済活動にブレーキをかけても,明日の地球を守らなければならない。地球環境問題解決への取り組みとは,人間の英知と理性を信じ,自らの手で未来を作りあげていこうという,まさしく崇高な挑戦と言える。
1992年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)以来,こうした潮流が世界的に定着した。その議論の基本になったのが,化石燃料の大量消費に伴って地球温暖化が進むという科学的な予測だった。しかし,地球環境保護の動きが世界的に大きな潮流になる一方で,この科学的予測は本当に正しいのかという異論が一部でくすぶり続けていたことも事実だ。
昨年出版された一冊の本が欧米でベストセラーになり大きな議論を呼んだのも,こうした背景があったからだろう。その本とは,デンマークの統計学者B・ロンボーグが著した『スケプティカル・エンバイロメンタリスト(懐疑的な環境保護論者)』。内容を一言で言えば「環境問題は世間で騒がれているほど深刻なのか」と疑問を呈したものだ。
たまたま昨年はブッシュ米大統領が地球温暖化防止京都議定書からの離脱を宣言した時期と重なったこともあり,この本の出版をきっかけに米国では地球環境をめぐる大論争が起きた。日本ではほとんど話題になっていないが,この論争を追うと地球環境問題を巡る米国の環境保護派と懐疑派の視点の食い違いが浮かび上がってくる。
今年8月に南アフリカ共和国のヨハネスブルクで開かれる地球サミットでは,米国の対応が大きな焦点のひとつになる。米国での論争の内容を知ることは,今後の地球環境問題の行方に大きな影響を及ぼす米国の動向を占う上でも興味深い。
SCIENTIFIC AMERICAN誌は 2002年1月号でロンボーグの著作を「地球温暖化」「エネルギー」「人口問題」「生物多様性」の4つの視点から批判する専門家の意見を紹介し,同5月号ではこれらの批判に対するロンボーグの反論を掲載した。本誌ではこれらを一部要約して翻訳,掲載する。(編集部)
ロンボーグへの批判
「地球温暖化は騒ぎすぎか」
著者:Stephen Schneider
スタンフォード大学生物学部教授,同大学国際学研究所の主席研究員。著作に『地球温暖化で何が起こるか』(草思社)などがあるほか,『気候気象事典』の監修やIPCCの報告書の数章,および不確実性に関するIPCCの手引書を手がけた代表執筆者でもある。
「エネルギー問題の核心は何か」
著者:John P. Holdren
ハーバード大学ジョン・F・ケネディ・スクール教授(環境政策担当)と同大学地球惑星科学部教授(環境学・公共政策担当)。1973~1996年までカリフォルニア大学バークレー校で大学院生を対象としたエネルギーと資源に関する学際的なプログラムを指導した。米科学アカデミーと米工学アカデミーの会員でもある。
「人口問題急増に問題は無いのか?」
著者:John Bongaarts
ニューヨーク市人口調査委員会政策調査部副代表。オランダ王立科学アカデミー会員。1998~2000年まで米科学アカデミーと米国研究評議会の人口動向予測調査団長を務めた。
「生物多様性の危機は幻想か」
著者:Thomas Lovejoy
世界銀行総裁の生物多様性問題首席顧問および国連財団理事長の首席顧問を務める。1973~87年まで世界自然保護基金(WWF)米国委員会会長。1987~98年まで米ワシントンのスミソニアン研究所環境・渉外担当次長。
原題名:Misleading Math about the Earth(SCIENTIFIC AMERICAN January 2002)
この原題名の記事は「地球温暖化」「エネルギー」「人口問題」「生物多様性」の各記事に対応。
批判に答える
「懐疑的な環境保護論者」からの反論
著者:Bjorn Lomborg
デンマークの統計学者。オーフス大学教授。1998年にデンマーク語で『地球の真の姿(Verdens Sande Tilstand)』を出版したが,特段の話題にはならなかった。だが,2001年9月に英ケンブリッジ・ユニバーシティー・プレスから英訳が出ると,一大センセーションを引き起した。これが『スケプティカル・エンバイロメンタリスト(懐疑的な環境保護論者)』だ。
原題名:The Skeptical Environmentalist Replies(SCIENTIFIC AMERICAN May 2002)
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