
単純にみえる細胞も,その生命活動はとても複雑で,スーパーコンピューターを使っても完全にはシミュレーションできない。だが,たとえシミュレーションモデルが不完全でも,それらは生物学を根本的に変える可能性を秘めている。
生物学者は現在,細胞の生化学的シミュレーションをするのにコンピューターモデルを使っている。実際の細菌中で起こる重要な反応をシミュレーションモデル内に総動員させようとする者もいれば,従うべき化学的,物理的,生理的法則などと照らし合わせつつ細胞の性質を割り出し,モデルを構築しようとする工学的手法をとる者もいる。
コンピューター上での実験やモデル作りを通し,短期間に,低コストで新薬を創り出す方法を見つけるのが最終目標だ。すでにいくつかの企業がそのようなサービスを提供し始めているが,それらのシミュレーションモデルの妥当性はまだ学会では認められていない。
慶応大学の冨田勝教授らは,高度な細胞シミュレーションシステム「E-CELL」を開発した。E-CELLシミュレーターを使って,マイコプラズマゲニタリウム(微生物の一種で,最も単純なゲノムをもつ)などから得られた127の遺伝子をもとに,生命体モデルを作り上げることに成功した例などを紹介する。
原題名
Cybernetic Cells(SCIENTIFIC AMERICAN August 2001)