日経サイエンス  2001年11月号

機械は自己複製できるか

M.シッパー(ベングリオン大学) J. A. レッジア(メリーランド大学)

 リンゴはリンゴを生むが,機械は機械を産めるか? 自己複製ができるかどうかは,長い間,生物と無生物を峻別する基本的な特性と考えられてきた。これまで生物の自己複製についてほとんど理解されていなかったため,自己複製は長い間神秘のベールに包まれ,人工物が自己複製できるはずがないと思われてきた。

 

 機械の自己複製が哲学から科学技術のテーマになったのは,天才的な数学者で物理学者だったフォン・ノイマン(John von Neumann)の1940年代後半の研究以降だ。フォン・ノイマンが開発したセルオートマトンをコンピューター上で実現すると,私たちが住んでいる宇宙とは異なる物理法則をもったいろいろな小宇宙での,膨大な種類の自己複製が実験できる。

 

 最近の研究の進歩によって,自己複製の夢物語に現実性が出てきた。自己複製の研究で得られる成果は,有益な技術と破壊的技術の峻別に役立つはずだ。

著者

Moshe Sipper / James A. Reggia

2人はともに複雑系の自己組織化に関心をもっている。シッパーはイスラエル・ベングリオン大学計算機科学学科上級講師で,ローザンヌのスイス連邦工科大学ロジックシステムズ研究所客員研究員。主に進化コンピューターや自己複製システム,細胞コンピューターなどの生物型計算パラダイムに関心がある。レッジアはメリーランド大学先端計算機研究所の計算機科学・神経学教授で,自己複製のほか,脳梗塞などの脳の疾患および脳のコンピューターモデルについても研究している。

原題名

Go Forth and Replicate(SCIENTIFIC AMERICAN August 2001)