日経サイエンス  2001年11月号

特集:現代の科学論争

心は脳にあるのか

信原幸弘(東京大学)

 心とは脳の働きそのものなのか,あるいは,心と脳は別物なのか──。過去300年以上にわたり,科学者や哲学者は「心の正体」をめぐって論争を繰り広げてきた。最近,認知科学や脳科学では心と脳を同一と考える「一元論」が主流になっており,両者は別物だとする「二元論」は影が薄くなりつつある。古典的な「心脳論争」は一見すると,決着したかのようにも見える。

 

 しかし,その一方で,新たな疑問も浮上してきた。「心は脳だけにあるのか」という問題だ。哲学者で東京大学大学院総合文化研究科の信原幸弘助教授は,心を「脳・身体・環境からなるシステム」ととらえるモデルを提唱。この説は私たちが日頃抱いている心(こころ)観の見直しを迫るだけでなく,認知科学の方向にも影響を与えそうだ。(編集部)

著者

信原幸弘(のぶはら・ゆきひろ)

東京大学大学院総合文化研究科助教授。心と脳の関係を研究している。1954年生まれ,兵庫県出身。