日経サイエンス  2001年10月号

細菌コロニーの砦を攻略する

J.W. コスタートン P. S. スチュアート(モンタナ州立大学)

 手に負えない感染症を引き起こす細菌には共通の特徴がある。こうした細菌は多数集まってコロニーを作り,複雑ではがれにくい“バイオフィルム”という構造に守られているのだ。従来の抗生物質では,バイオフィルムを根絶することはほぼ不可能だ。

 

 バイオフィルム内の環境にはばらつきがあるため,複数の菌種が共存したり,同じ細菌が異なる代謝状態におかれることがある。抗生物質や殺菌剤で攻撃しにくいのは,バイオフィルム内のこのような多様性が原因だ。

 

 この数年の研究から,バイオフィルムの中の細菌には互いに信号をやりとりする能力があり,この情報通信のおかげで生き延びていることがわかってきた。細菌のシグナル伝達を妨害する医薬品が開発できれば,感染を防いだり,細菌の万全な防備体勢を崩せるはずだ。嚢(のう)胞性線維症の患者が繰り返し罹る肺炎から,医療用インプラントの周辺から徐々に広がる感染症まで,この方法は様々な疾患に有効と思われる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス221「微生物の脅威」

著者

J. W. Costerton / Philip S. Stewart

 2人は10年ほど前から共同研究をしている。細菌学でPh.D.を取得したコスタートンはモンタナ州立大学のバイオフィルム工学センター長。化学工学博士号を持つスチュアートは同センターの副センター長で,研究コーディネーターを務める。

原題名

Battling Biofilms(SCIENTIFIC AMERICAN July 2001)