日経サイエンス  2001年9月号

北極圏に火星基地をつくる

R.ズブリン(火星協会)

 北緯75度の北極圏にあるカナダ・デボン島に昨年の夏,有人火星計画で火星に建設する基地と同じ設計の模擬基地が誕生した。デボン島は寒く乾燥している上に,強風が吹きすさび,岩石と塵に覆われている砂漠のような光景が広がっている。地球上で火星に非常に似た環境だというので,この島に模擬基地を建設することになった。

 

 著者が会長を務める火星協会が提唱し,デボン島のプロジェクトは始まったが,その道のりは平坦ではなかった。2000年7月に米海兵隊の輸送機で建設資材をデボン島に投下し始めたが,パラシュートが外れ,積み荷が地面に激突し壊れてしまったり,寒さと疲労と闘いながらの作業など苦労の末模擬基地は完成した。昨年の夏は完成したものの,実際の居住実験はわずか4日間しかできなかった。

 

 今年の夏はデボン島の基地で8週間にわたって居住実験をする予定だ。そこでは科学者たちが火星で実際に着る宇宙服をまとい実地テストするほか,基地の設計がこれでよいのか,狭い場所での生活が人間の心理にどのような影響を及ぼすのかなどを調べる。米コロラド州にある実験用計画管制室との交信は,地球と火星の間で交信する際に生じる時間遅れを模擬するため,わざと20分送らせる。こうした実験は今後の有人火星計画の重要なデータになる。

著者

Robert Zubrin

 火星協会会長。協会の設立メンバーでもある。宇宙探査技術の研究開発会社パイオニア・アストロノーティクスの設立者でもある。著書にTheCase for Mars(Simon & Schuster,1996),Entering Space(Tarcher & Putnam,1999)がある。火星協会のホームページはhttp://www.marssociety.org。火星協会のデボン島計画に意見を述べたい方は,editors@sciam.comで英語での読者のコメントを受け付けている。

原題名

North to Mars!(SCIENTIFIC AMERICAN June 2001)