日経サイエンス  2001年9月号

太陽のパラドックス コロナは表面よりなぜ熱い

B.N. ドゥイベディ(バナラス・ヒンズー大学) K. J. H. フィリップス(ラザフォード・アップルトン研究所)

 太陽の外層大気であるコロナは100万K(Kは絶対温度,0Kは-273.15℃)以上もあるが,太陽表面は6000Kしかない。冷たいストーブの上でやかんが沸騰するようなこの謎の現象が,今解き明かされようとしている。

 

 太陽内部の温度構造は,だれもが予期するように,中心核の1500万Kから表面の6000Kへと単調に下がっている。ところが,太陽大気では,予期しない「温度勾配の反転」が起きている。まず彩層の温度は,表面の6000Kから1万Kへと徐々に上昇し,コロナに入るところで,温度は急激に100万Kへと上昇する。さらに,太陽黒点上空のコロナは,より一層熱くなっている。エネルギーの供給源は光球面下にあるのに,どうしてこのような勾配反転が起きているのだろう。まるで暖炉から離れたほうが暖かいというような,非常に不思議な現象だ。

 

 しかし,この謎は,ついに解けそうだ。コロナを加熱する仕組みの問題は磁場と関連していると考えられるが,それは磁場が強いところは,コロナが熱いからだ。このとき磁場は,熱以外の形でエネルギーをコロナに伝えているに違いない。そうすれば,通常の熱力学的制約にとらわれないですむ。しかし,伝わったエネルギーは熱に変わらなくてはならない。その方法には2つの理論が考えられており,それぞれ検証が進められている。

著者

Bhola N. Dwivedi / Kenneth J. H.Phillips

 ドゥイベディは,インドのバナラシにあるバナラス・ヒンズー大学物理学科上級講師。フィリップスは,英国ディドゥコットにあるラザフォード・アップルトン研究所太陽研究グループリーダー。2人は10年間前から太陽物理学の共同研究を始めた。ドゥイベディは10年以上,SOHO衛星搭載紫外線望遠鏡SUMERの仕事にも携わっている。最近,ドイツ・ハノーバー近郊にあるマックス・プランク航空研究所から,最高名誉の「ゴールド・ピン」を得た。少年時代は手製バーナーの光で勉強し,村で初めて大学へ進学した。フィリップスは,OSO-4,SolarMax,IUE,ようこう,SOHOなど多くの観測衛星計画に搭載したX線や紫外線の観測装置の仕事に携わってきた。また,CCDカメラを利用した日食観測も数多くしている。

原題名

The Paradox of the Sun's Hot Corona(SCIENTIFIC AMERICAN June 2001)