日経サイエンス  2001年8月号

謎の新兵器 超音速魚雷

S.アシュレー(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)

 昨年8月,ロシアの潜水艦「K-141クルスク」がバレンツ海で爆発事故を起こして沈没したとき,事故原因をめぐってある噂が駆けめぐった。「謎の爆発は超高速魚雷の実験と関連があるのではないか」という憶測だ。

 

 一方,事故の数カ月前,モスクワにいた米国人実業家ポープ(Edmond Pope)がスパイ容疑で逮捕された。ロシアが開発中の超高速魚雷の設計図を買い取ろうとした疑いが掛けられているという。

 

 悲惨な潜水艦事故の原因も,世間を騒がしたスパイ事件の真相も,詳細はいまだに明らかになっていない。しかし,これら2つの事件はほとんど報道されることのなかった“驚異の兵器”をめぐって起きたらしい。この謎の兵器の開発が進んでいることを示唆する事実も浮かび上がってきた。現在,水中で使用する兵器や潜水艦の速度は最高でも時速140km程度だが,新兵器が実用化すれば時速数百km,ときには水中での音速(時速約5400km)を超える速さまで加速できる。

 

 最近になって,この新兵器の開発を世界の軍事大国がこぞって進めていることが明らかになってきた。画期的な水中兵器で完全武装したり,史上最速の潜水艦隊を編成するのが狙いだ。“水中ワープ”とでもいうべき超高速推進を可能にするこの新技術は,「スーパーキャビテーション」と呼ぶ物理現象を応用している。

 

 スーパーキャビテーションは流体力学で説明される効果の一種で,物体や船体が高速の流体中を動くとき,その背後に水蒸気の泡が生じることによって起きる。物体が気泡に絶えず包まれると,表面の大部分が濡れないまま保たれる。この結果,水の粘性によって生じる摩擦抵抗が劇的に減り,速度を上げられる。かつて航空分野でプロペラ機がジェット機やロケット,ミサイルへと進化したように,海の戦争もスーパーキャビテーション技術によって一変する可能性がある。

原題名

Warp Drive Underwater(SCIENTIFIC AMERICAN May 2001)

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