日経サイエンス  2001年8月号

自分で推論する未来型ウェブ

T.バーナーズ=リー(マサチューセッツ工科大学) J. ヘンドラー(メリーランド大学) O.ラッシーラ(ノキア・リサーチ・センター)

 現在のワールド・ワイド・ウェブ(WWW)は新しい情報メディアとして急速な成長を遂げてきたが,あくまで人間が読むことを前提に作られている。このため,ホームページ上の文字列や画像の「意味」はコンピューターには理解できない。検索エンジンにキーワードを入力した場合,調べたいものとはまったく無関係な結果がたくさん交じってしまうのは,コンピューターがキーワードの意味を理解していないためだ。

 

 コンテンツの意味関係を定義するデータをウェブに追加することによって,WWWをセマンティックウェブ(意味を持つウェブ)と呼ぶ新形式のコンピューター網に進化させようとする試みが始まっている。そこでは,コンピューターがリンクをたどることによって重要な用語やルールの定義を知り,データの意味を論理的に解釈し,推論できるようになる。正確な意味検索が可能になるほか,エージェント(代理人ソフト)を駆使してスケジュール調整などの複雑な処理をこなしたり,ネットを介して個別の装置を制御するホームオートメーションなどが容易に実現できる。

 

 意味関係を表現するXML言語やRDF(リソース・デスクリプション・フレームワーク)などの技術基盤が整いつつある。セマンティクウェブの登場によって,インターネットの可能性は飛躍的に拡大するだろう。

 
 
再録:別冊日経サイエンス216「AI 人工知能の軌跡と未来」

著者

Tim Berners-Lee / James Hendler / OraLassila

3 人はそれぞれセマンティックウェブ技術とその潜在能力に魅了されてきた研究者である。バ ーナーズ=リーはマサチューセッツ工科大学のコンピューター科学研究所の研究者で,ワール ド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)のディレクターも務めている。彼が1989 年にウ ェブを世に送り出したときには,今日一般に広く利用されているウェブよりもはるかにセマン ティックなものを目指していた。ヘンドラーはメリーランド大学カレッジパークのコンピュー ター科学の教授で,長年にわたってウェブの文脈における知識表現を研究してきた。彼は大学 院生と共同で「SHOE」を開発した。SHOEはウェブベースで知識を表現できる初の言語であり, この論文で紹介しているエージェントの機能の多くを実行できる。米国防総省高等研究計画局 (DARPA)におけるエージェントベースの研究開発の責任者でもある。ラッシーラはボストンに あるノキア・リサーチ・センターのリサーチフェローで,ノキア・ベンチャー・パートナーズ の上級科学研究者であると同時に,W3Cのアドバイザリーボードでもある。エージェントの構 築やウェブ上のタスク自動化の難しさに困難を感じながらも,セマンティックウェブの礎とな るW3CのRDF仕様書を著した(共著)。

原題名

The Semantic Web(SCIENTIFIC AMERICAN May 2001)