日経サイエンス  2001年4月号

特集:宇宙論の新展開

光速不変に挑む新理論

J. マグエイジオ(ロンドン大学インペリアルカレッジ)

 宇宙論では現在,「インフレーション理論」が隆盛だが,研究者はほかの理論にも魅力を感じている。1960 年代までビッグバン理論に代わる主要理論とされた定常理論は,今でも少数ながら支持者がいる。弦の振動をイメージした「ひも理論」をもとにしてインフレーション理論を改訂した「前ビッグバン理論」は,一部研究者がのめり込んでいる。しかし,最も有望で,研究者を扇動する理論は私たちが過去数年研究を重ねてきた光速変動理論(VSL)かもしれない。ほかに理論がなければ,こうした理論は宇宙論に色どりやさまざまな趣向を添える。

 

 インフレーション理論のような主流の宇宙論は,ある重要な仮定に基づいている。それは光速など基本的な物理パラメーターをいつも一定,つまり定数としていることだ。宇宙論の研究者はこの仮定に基づいて,インフレーション理論や修正理論を作っている。

 

 確かに観測結果は,一定と見なした定数が年代とともに変わっていないことを示している。ただ,研究者が調べたのは,過去10 億年程度でしかない。誕生から現在まで宇宙の全生涯にわたりそれらの定数が一定とするのは,はなはだしい推定だ。定数としている値は,実際には温度や密度のように,ビッグバン宇宙で時間とともに変わっているかもしれない。
 
 

著者

Joao Magueijo

ロンドン大学インペリアルカレッジ講師。宇宙論の研究では,観測的見地と彼の言葉によれば「ばかげた」見地の間を興味が揺れ動いている。それは宇宙のマイクロ波背景放射の分析から,トポロジー的欠点やクインテッセンス,ブラックホールにまで及ぶ。

原題名

Plan B for the Cosmos(SCIENTIFIC AMERICAN January 2001)

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光速変動理論