
生体にとって,必要なタンパク質の合成と同様,不要なタンパク質をどう処理するかも重要な問題だ。この不要タンパク質を専門に分解する機能をもつタンパク質の超分子を「プロテアソーム」と呼ぶ。
細胞内に不要なタンパク質や有害なタンパク質がたまってしまうと,病気の原因になることがわかってきた。アルツハイマー病やパーキンソン病,ハンチントン舞踏病などは,そうした例と考えられる。逆に,必要なタンパク質が役割を果たさずに分解される結果,生じる病気もある。
分解される際,タンパク質には分解の目印となる酵素タンパク質(ユビキチン)が付けられる。これをプロテアソームの内部に取り込まれたタンパク質は,ブロック玩具のように個々のアミノ酸に分解される。分解されたアミノ酸は再び他のタンパク質をつくる材料として使われる。ほとんどのタンパク質は数日ごとに合成,分解され,新しく置き換わっている。
プロテアソームの詳しい機能や,ユビキチンを付加する仕組み(選択的ユビキチン化)はまだわかっていない。こうした研究が今後進めば,生命現象とタンパク質分解のかかわりがよく深く理解されるようになるだろう。
著者
Alfred L. Goldberg / Stephen J.Elledge / J. Wade Harper
3人は,いずれも細胞内でのタンパク質の分解と,タンパク質と病気の関係を研究してきた。ゴールドバーグは,ハーバード大学医学部の細胞生物学部門の教授。1968年にハーバード大学医学部で博士号を取得。その後も長い期間ハーバード大学で研究者として過ごしてきた。産業界の顧問としても広く活躍し,1998年にはノバルティス・ドリュー医学生物学賞(Novartis-DrewAward for Biomedical Research)を受賞している。エレッジは,ヒューストンにあるベイラー医科大学のウェルチ(RobertA. Welch)記念生化学講座の教授で,ハワード・ヒューズ医学研究所兼務。1983年にマサチューセッツ工科大学で博士号を取得。1994年にはディベーケイ賞(MichaelE. DeBakey Award for Research Excellence)を受けている。ハーパーは,同じくベイラー医科大学の生化学・分子生物学部門と分子生理学・生物物理学部門の教授。1984年にジョージア工科大学で博士号を取得。2000年にはオックスフォード大学でバリー客員教授(ValleeVisiting Professorship)を務めた。
原題名
The Cellular Chamber of Doom(SCIENTIFIC AMERICAN January 2001)