日経サイエンス  2001年1月号

ロボットで変わる心臓手術

C.ボルスト(オランダ・ユトレヒト大学)

 動脈硬化は,心臓の冠状動脈の内部にコレステロールなどの脂肪性の物質が蓄積していき,血管が詰まり血液の流れが悪くなる病気だ。冠状動脈バイパス手術は,詰まった動脈に別の血管を移植して,バイパスをつくり,血液を迂回させる手術だ。この手術を受ける人は,世界で年間約80万人といわれる。ただ,従来は,心臓の血管に手術するときに人工心肺装置を使って心臓を停止しなければならず,胸も大きく切開しなければならなかった。人工心肺装置を使うと,とくに高齢の患者では,脳卒中などの合併症を引き起こすことがある。また,入院期間も長引くことになる。

 

 医師たちは,患者の体にかかる負担を減らそうと,人工心肺装置を使わずに,胸もあまり切開しないですむ手術を試みた。1990年代半ばから,心臓を動かしたままで手術できる装置が開発された。

 

 またコンピューター技術の進展にともない,より患者に負担の少ない手術をめざし,ロボットによる心臓の内視鏡手術も試みられはじめた。

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

Cornelius Borst

オランダのユトレヒト大学医学センター実験心臓病学教授。アムステルダム大学で修士号と博士号を獲得した後,1981年,ユトレヒトの実験心臓病学研究室長になった。アテローム性冠状動脈狭さくや,血管整形術後の再狭さくの仕組みについても研究している。

原題名

Operating on a Beating Heart(SCIENTIFIC AMERICAN October 2000)