
辞書によれば,ミーム(meme)とは,「1つの文化の内部で人から人へと広がる思想や観念,行動,スタイル,あるいは慣習」だ。握手をし,「ハッピー・バースデー」を歌い,選挙で1票を投じるとき,実はあなたはミームに生命を吹き込んでいる。
ここまでは誰も異論がない。しかし,ここで心理学者ブラックモアが述べている提案に関しては議論が噴出している。それは,他人を模倣でき,したがってミームを伝達できるという私たちの並はずれた能力こそが,人類をほかの動物から違った存在にしたのだという主張だ。彼女によれば,ミームは人類の文化的な,および生物学的な進化を形づくる強力な要因だった(そして今もそうだ)という。
どういう論争があるかを伝えるために,行動生態学者のデュガトキン(Lee Alan Dugatkin),進化人類学者ボイド(Robert Boyd)と集団生物学者リチャーソン(Peter J. Richerson),心理学者のプロトキン(Henry Plotkin)による3編の短い反対意見を併せて掲載した。この競合するミームたちのごたまぜ料理をどうかお楽しみいただきたい。
主役は自己複製子「ミーム」 S. ブラックモア
ミームは人類に固有か L. A. デュガトキン
ミームだけで文化は語れない R. ボイド/P. J. リチャーソン
価値観の共有を説明できるか H. プロトキン
著者:Susan Blackmore
1995年にデネット(Daniel Dennett)の『ダーウィンの危険な思想』と大学院生が書いたミームと意識に関する小論文によって,ミームという名のミームに感染し,この概念が根付いた。人間の心についての理解を一変させてしまうと約束することによって。このミームは,ブラックモアのミーム生成資源の多くをこの観念のさらなる研究と普及に捧げるように仕向けた。科学的なミームの情報源としての彼女の社会的地位はブリストルのウエスト・オブ・イングランド大学の心理学の準教授という形をとっている。臨死体験に関する彼女の懐疑的研究および,宇宙人による誘拐の物語が一種の睡眠まひを意味づけようと試みる(間違った1群のミームによって)人々によって作り出されたのではないかという示唆に対して,超常現象の主張に関する科学的調査委員会(CSICOP)は,傑出した懐疑主義者賞を授与した。
著者:Lee Alan Dugatkin
ルイビル大学生物学教室準教授。10年間にわたって動物の模倣を研究している。このテーマについての新著『模倣という要因:遺伝子を超えた進化』がThe Free Pressから2001年1月に刊行予定。
著者:Robert Boyd/Peter J. Richerson
2人は25年にわたって,人類文化の進化,文化的進化,遺伝的進化の相互作用の仕方について協力し,研究している。彼らの仕事は数学的なモデルを,研究室や野外研究から得られた実証的な研究成果と結びつける。ボイドはカリフォルニア大学ロサンゼルス校の進化心理学者。リチャーソンはカリフォルニア大学デービス校の集団生物学者。
著者:Henry Plotkin
ロンドン大学ユニバーシティーカレッジの心理生物学者で,1972年以来,ここで研究を続けている。進化と認知に関する2冊の本の著者で,最近は3冊目の文化の進化に関する本を執筆中。