日経サイエンス  2000年12月号

宇宙の見えざる次元

N.アルカーニ=ハメッド(カリフォルニア大学バークレー校) S.ディモポロス(スタンフォード大学) G.ドゥバリ(ニューヨーク大学)

 私たちの宇宙は4次元よりもっと高い次元の時空に浮かぶ「膜」の上にあるのかもしれない。余分な次元を考えるというこのアイデアは,自然界の力を統一するのに都合がよい。SF小説に出てくる,互いには交信できないパラレル宇宙の可能性もこのアイデアは示している。

 

 アボット(Edwin A.Abbott)は著書『二次元の世界 平面の国の不思議な物語』(1884)で,三角形,四角形,五角形といった図形が住む2次元世界の住人の1人「正方形」が経験したいろいろな冒険を書いている。話のクライマックスでは,3次元「立体の国」の球状生命体が,2000年1月1日に「平面の国」を通過し,「正方形」を平面の世界から連れ出し,より大きな3次元の世界がどんなものかを彼に教える。球状生命体が彼に示したことを理解するにつれ,立体の国もさらにもっと大きな4次元宇宙の部分にすぎないのでは――と「正方形」は想像をたくましくする。

 

 驚くべきことに,この話と非常によく似たことを,物理学者たちは2年ほど前からまじめに考え始めている。この宇宙で私たちが見られるのは,高次元の国の世界に横たわる3次元の「膜」にすべて閉じ込められているという。しかし,「正方形」の場合とは違い,現実世界の物理学者は,1mm程度で広がる余分な次元を今にも発見し,その存在を確認するかもしれないという。実験家は,すでに余分な次元が存在した場合に,重力に与える影響を探り始めている。

著者

Nima Arkani-Hamed / Savas Dimopoulos / GeorgiDvali

3人は,1998年2月スタンフォード大学で一緒になったとき,ここで紹介した多次元理論を考え出した。アルカーニ=ハメッドは1972年ヒューストンで生まれ,1997年にカリフォルニア大学バークレー校で物理学の博士号を取得,1999年に同校助手になった。彼は標準モデルを超える素粒子論の研究をしていないときは,シエラネバダの山やカリフォルニアの砂漠を歩き回っている。ディモポロスはギリシャのアテネで育ち,シカゴ大学で博士号を取得した。1979年よりスタンフォード大学の物理学教授。彼は,主に標準モデルを超えたところに何があるかという疑問に駆られて研究をしてきた。1981年,超対称性標準モデルをハーバード大学のジョージ(HowardGeorgi)と提唱した。ドゥバリは現在のグルジアで育ち,1992年に高エネルギー物理と宇宙論の分野でツビリシ国立大学で博士号を取得した。1998年からニューヨーク大学の物理学の準教授。高い山に登ったり,岩登りや氷河登りをしながら重力に打ち勝つことを楽しんでいる。

原題名

The Universe's Unseen Dimensions(SCIENTIFIC AMERICAN August 2000)