日経サイエンス  2000年11月号

炎が生み出す新素材

A.バーマ(ノートルダム大学)

 物が燃えてセラミックスや合金ができるのはなぜなのか。高速ビデオカメラなどで燃焼反応を直接観察できるようになってきた。これを使えば,高温超電導体など新材料を効率的に開発できる。

 

 火薬でできた導火線が燃えている様子を想像してみよう。炎が火薬に沿って走ると,その跡には粉のような灰とガスのほかは何も残らない。今度は,化学反応を起こす別の粉末で導火線を作ったとする。混合物が燃えると,明るく,真っ赤に見える熱の波が導火線を伝わり,固体の物質が後に残る。

 

 なぜ,こうした違いが生じるのか,不思議に思えるかも知れない。しかし,炎が常に物を燃やし尽くしたり,粉々にしたりするとは限らない。実際,燃焼反応は新材料を作るのによく利用されており,材料科学で技術革新を引き起こす最も有望な手法と言える。「燃焼合成」と呼ばれる分野の妙味がここにある。

 

 燃焼合成(焼成)という現象自体はおよそ30年も前に科学的に解明され,これまでに500以上の化合物が焼成によって開発された。それらの中には,ボールベアリング(軸受け)や放射線防護用の材料,研磨剤,高温超電導材料など工業的にきわめて有用な材料もある。

 

 だが,長い研究の歴史にもかかわらず,開発の手段は主に試行錯誤に頼ってきた。例えば,原料粉末の純度を高めれば,生成物の強度が増すことがわかっているが,なぜそうなるのかは推測に頼るしかない。このため,燃焼合成を応用できるのは,きわめて特殊な領域に限られてきた。

 

 最近になってようやく,熱の波が混合物の中を実際にどう伝わるのかや,作りたい物質がどう合成されるのかがわかってきた。原料の化学物質から最終生成物ができるまでにどんな現象が起こるかを詳しく解明し,高度な焼成技術を幅広い分野に応用することを目指した研究が動き始めた。

著者

Arvind Varma

ノートルダム大学でこれまで10年間,燃焼合成による先端材料づくりを研究してきた。化学工学が専門で1972年,ミネソタ大学で博士号を取得。その後,2年間,ユニオン・カーバイド社に勤務し,1975年,ノートルダム大学に移った。1988年から同大学のアーサー・J・シュミット講座の教授を務めている。

原題名

Form from Fire(SCIENTIFIC AMERICAN August 2000)