
1995年に公開された映画『トイ・ストーリー』は,最初から最後までコンピューターで製作された初めての映画だ。コンピューターグラフィックス(CG)の世界では,この映画の完成は,エンターテインメント分野での画期的な出来事だった。しかし,登場人物やさまざまな物体はどれものっぺりとしていて,現実の人や物に見られる外観の特徴が見られなかった。続編の『トイ・ストーリー2』では,擦り切れた様子や,泥,天候の影響などが,物体の表面に一定のパターンでかき込まれ,多少現実感のある仕上がりになっている。
シミュレーションをより現実に近づけるには,摩擦や汚れのある姿を,さまざまな形で正確にモデル化しなければならない。得られる画像の精度や見た目の複雑さは,物体を作る物質のモデルの質に決定的に左右される。
モデル化の重要な特性は2つある。1つは,物質の内部構造の直接的なモデル化と,表面下での光の伝播と拡散のシミュレーション。もう1つは,腐食などで表面に酸化層ができたり,割れ目が入ったりするような経年変化による表面のモデル化だ。
こうしたレンダリング(画像生成)技術はアニメーション映画だけでなく,広く産業界で利用されている。ボーイング社はレンダリング技術をバーチャルリアリティー・システムに使い,旅客機のボーイング777を設計した。建築設計や都市計画を手がける事務所は,計画案の段階でレンダリングを使って,建造物がつくる影や光の反射など,周囲の環境への視覚的な影響を調べている。(本文より)
著者
Julie Dorsey / Pat Hanrahan
2人はデジタル物質表現に関して1994年から共同研究している。ドーシーはマサチューセッツ工科大学(MIT)の準教授で,建築学科と電気・コンピューター科学科に所属している。MITコンピューターサイエンス研究所(LCS)のメンバーでもある。ハンラハンは,スタンフォード大学キヤノンUSA寄付講座教授で,コンピューター・電気工学科に所属する。
原題名
Digital Materials and Virtual Weathering(SCIENTIFIC AMERICAN February 2000)