日経サイエンス  2000年4月号

知的生命体は永遠か

L. M. クラウス G. D. スタークマン(いずれもケース・ウェスタン・リザーブ大学)

 世界のさまざまな宗教が「永遠の生命」を信仰の核においている。しかし,ここで論じられているのは,現実の世界,つまり宇宙における「永遠の生命」だ。

 

 物理学者フリーマン・ダイソンは1979年に,永遠の生命についての論文を発表し,永遠の生命は可能だとした。この論文をきっかけに,物理学者や天体物理学者の間で議論が巻き起こった。クラウスらは最新の観測結果にもとづいて再検討を行い,10の100乗という時間を想定すると,生命は滅びる運命にあると結論づけた。

 

 その原因は「宇宙膨張」にある。宇宙はサイズが大きくなるにつれて,エネルギー源の平均密度は減少していき,宇宙の半径が2倍になれば,原子密度は1/8に減る。光の波の場合は減少はいっそう顕著で,宇宙膨張が光の波長を引き伸ばすにつれてエネルギーが小さくなるから,エネルギー密度は1/16になってしまう。こうしてエネルギー密度が希薄になり,資源を入手するのにますます時間がかかるようになる。物質を集めようとしても,現在の観測結果や物理学の法則に従う限り,やがては不可能になるという。(編集部)

 

※お詫びと訂正

著者

Lawrence M. Krauss / Glenn D. Starkman

2人は宇宙の基本的な作用に関する彼らが抱き続けてきた研究の自然な延長として,生命の将来について考えてきた。クラウスの著書The Physics of Star Trek とBeyond Star Tred(邦題は『SF宇宙科学講座』日経BP社)は,同じ動機から書かれている。 クラウスは,オハイオ州クリーブランドにあるケース・ウエスタン・リザーブ大学の物理学教室の主任であり,宇宙定数に支配されている宇宙を,初期のころから確信を持って議論してきた宇宙学者だ。このアイデアは,今や広く受け入れられるようになっている。 スタークマンは,同じくケース・ウェスタン・リザーブ大学の教授であり,宇宙のトポロジーについての研究でよく知られている。2人は,フラストレーションを感じている楽観主義者と言える。彼らは,生命が永続する方法を探し求めてきたが成功していない。にもかかわらず,彼らは,クリーブランド・インディアンズがワールド・シリーズで勝利するにはまだ十分な時間が残っている,という希望は捨ててはいないからだ。

原題名

The Fate of Life in the Universe(SCIENTIFIC AMERICAN November 1999)

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