
生命は地球でだけ誕生したのだろうか。それとも太陽系のどこかよその場所でも生まれたのだろうか。この問いの答えを見い出すことが,現在の惑星探査の中心課題だ。過去30年間の惑星や衛星の探査で,生命が存在しそうな天体は非常にわずかなことがわかってきた。その数少ない“候補者リスト”中で筆頭にあげられるのが,氷に覆われた木星の衛星エウロパだ。
惑星探査機ガリレオが送ってきた画像の分析から,エウロパ表面で,ごく最近,激しい変動が起きたことが明らかになった。とすれば,表面の硬い氷層の下のどこかに,暖かくて流動的な層が存在しているに違いない。それは氷河のような流動する氷なのだろうか。それともエウロパの内部はかなり暖かくて,液体の水の海「内部海」が存在しているのだろうか。
エウロパ内部に海が存在するとして,少し想像を膨らましてみよう。極寒のエウロパから見る太陽は,地球で見るよりも輝きがかなり衰えている。硬くて厚い氷の層の下の海には,弱々しい太陽の光はもう届かない。その暗黒の海の深みの中で,生命が誕生したとは考えられないだろうか。
ガリレオの観測成果を踏まえ,米航空宇宙局(NASA)は現在,新たな探査計画エウロパオービターミッションの準備を進めている。早ければ2003年11月に打ち上げられ,その3年後に木星軌道に到達する。さらにその2年後,探査機はエウロパ周回軌道に乗る。平均軌道高度は約200kmで,エウロパ表面をなめるように飛ぶ。これによる探査で,内部海があるかどうか決着がつくだろう。
著者
Robert T. Pappalardo / James W. Head / Ronald Greeley
3人はここ数年,ガリレオ探査機の画像チームに属して研究に取り組んでいる。パパラルドはブラウン大学の研究員。高校生だった1979年,ボイジャーによる木星探査に接し,木星の衛星に興味を抱くようになった。様々な科学博物館で惑星科学分野の企画・展示の仕事にも関わっている。 ヘッドはブラウン大学教授(地質学)。アポロ計画当時,新進気鋭の教授だった彼は,月着陸地点の選定や宇宙飛行士の訓練の支援に関わり,以来,主だった惑星探査計画のほとんどに参加している。数十年前の冷戦時代,鉄のカーテンが政治と同様に科学の前にも存在していたころ,ロシア(当時はソ連)の研究者と共同研究を始め,現在も続いている。 グリーリーも惑星科学研究の大家で,現在はアリゾナ州立大学教授。アポロ計画が始まる前の時代,軍事部門だったNASAで研究を開始,地質学的原理はどのようにして地球外天体に適応されるかという当時としては新しい考えを模索していた。
原題名
The Hidden Ocean of Europa(SCIENTIFIC AMERICAN October 1999)