 |
 | |
| |
 |   |  | 働きはカルシウム調節だけではない |  |  |  | カルシウム取り込みの役割がほぼ判明したので,1970年代になると研究者たちはビタミンDをさらに詳細に調べ始めた。そして,その結果は驚くべきものだった。いくつかの研究チームは従来のカルシウム維持系とは違った組織の細胞核にビタミンDホルモンを発見した。脳神経やリンパ球(感染と戦う白血球),皮膚,悪性腫瘍組織などの細胞核だ。こんなところでビタミンDはいったい何をしているのだろうか? 1980年代初め,日本人研究者の須田立雄(すだ・たつお,埼玉医科大学ゲノム医学研究センター教授・昭和大学名誉教授)は極めて興味深い発見をした。ビタミンDホルモンを未熟な悪性白血病細胞に添加すると,その細胞が分化し,成熟して増殖を止めるのだ。ガンの増殖を止めるには多量のビタミンDホルモンが必要で,これまでのところ人間には使えないが,須田の発見はビタミンDホルモンが体のカルシウム濃度維持だけでなく,魅力的な役割を果たしていることを示している。この発見はビタミンD研究に新時代を切り開いた。 1980年代半ば,マノラガス(S. C. Manolagas)が率いる研究チームは,ビタミンDホルモンに免疫系を調節する役割もあるらしいことを発見した。1993年,デルーカの研究室にいたヤング(S. Yang)らは,大量のビタミンDを投与したラットでは,傷つけたり刺激性化学物質を与えたりしても炎症を起こしにくいことを発見した。ビタミンDホルモンのこの予期せぬ免疫抑制機能は,自己免疫疾患の抑制など,まったく新たな可能性を示した。 ビタミンDホルモンの効果がより顕著に現れたのは,皮膚病の乾癬(かんせん)への応用だ。乾癬は世界で5000万人もの患者がおり,皮膚細胞がなぜかコントロールを失って増殖を続けるようになる。分化や発達が正常にいかず,皮膚細胞が発疹やかさぶた,傷となって醜く凝集する。1980年代に日本のある研究チームは1,25-ジヒドロキシビタミンD3が皮膚細胞の成長を阻害することを示した。ホリック(Michael F. Holick)が率いるボストン大学医学部の研究チームはこの阻害作用をさらに詳しく調べ,乾癬治療に使えるとの結論に達した。 ホリックらによる最初の臨床試験で,ビタミンDホルモンを外用薬として使うと非常に効果的であることがわかった。カルシトリオール(ビタミンDホルモン)外用薬で処置した患者たちの場合,2カ月後に96.5%の傷がほとんど副作用なしに好転した。一方,ワセリンだけで処置した患者で好転したのは15.5%だった。米食品医薬品局(FDA)は1994年にビタミンDをベースにした乾癬治療外用薬「カルシポトリオール」を認可した。 21世紀に入ったいま,私たちは過去2世紀にわたる科学研究によってビタミンDホルモンの働きが解明されただけでなく,成人や子どもの健康を守る道筋が与えられたことに改めて気づく。研究者たちはいまなおビタミンDの新たな応用を追求している。骨の形成と維持にかかわるビタミンDの役割は,特に中高年層にとって,現在も健康上の大切な問題だ。 |  |  |  | 画像をクリックして詳細をご覧いただけます。 |  |  | |  | |  | |
 |  | 原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。 このウェブサイトは米国科学アカデミー(NAS)と日経サイエンス社の取り決めをもとに作られています。 Copyright Japanese Edition 2003 by Nikkei Science, Inc. All rights reserved. Copyright 2003 by the National Academy of Sciences. All rights reserved. 2101 Constitution A venue, NW, Wadhington, DC 20418 |  | |
 |