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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
ビタミンDの謎を解く
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1. イントロダクション
2. 誤った同定
3. 病気の原因を追う
4. 「タンパク質や塩分とも違う物質」
5. くる病に迫る
6. 動物,植物,あるいはミネラル?
7. ビタミンDとカルシウム調整との関係
8. 働きはカルシウム調節だけではない
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■「タンパク質や塩分とも違う物質」
 1880年代,オランダの医師エイクマン(Christiaan Eijkman)は東インド(現在のインドネシア)で脚気が多く発生しているのはなぜかを探るため,現地に派遣された。エイクマンはジャカルタの研究室で飼われていたニワトリが脚気と非常によく似た神経性の病気(多発性神経炎)の症状を見せていることに気づいた。筋肉が弱まり,神経が変性し,麻痺を起こしている。彼はその原因となる病原体を探す実験に取りかかった〔彼の時代の多くの研究者がそうであったように,エイクマンはパスツール(Louis Pasteur)の業績に影響を受け,脚気の原因は細菌だと考えていた〕。
 
image 病原体探索の試みは失敗したが,エイクマンは1897年,もっと重要なことを立証するのに成功した。ニワトリに与える餌を精米,つまり玄米の胚芽部分を取り除いて精白したものに変えると,ニワトリが脚気に似た多発性神経炎にかかることを示したのだ。精米にする際に取り除いた糠(ぬか)をニワトリの餌に加えると,多発性神経炎が治ることも実証した。
 
 エイクマンと彼の後継者グリンズ(Gerrit Grijns)は後に,この謎の抗神経炎因子を水やエタノールを使って米の胚芽から抽出した。2人は1906年に「米の精白段階で磨き落とした物質の中にはタンパク質や塩分とは違うものが存在する。それは健康に不可欠であり,不足すると栄養学的に多発性神経炎を引き起こす」と書いている。
 
 1926年,2人のオランダ人化学者,ヤンセン(B. C. P. Jansen)とドナート(W. Donath)はエイクマンが働いていたのと同じジャカルタの研究室で,米の胚芽から抽出した水溶性の抗神経炎因子を結晶化した。現在ではビタミンB1,あるいはチアミンと呼ばれる物質だ。
 
 一方,20世紀初頭には,別の研究者たちも,ある種の「副次的食物因子」の存在を信じるようになっていた。英国の生物学者ホプキンズ(Sir Frederick Gowland Hopkins)は1901年にアミノ酸のトリプトファンを発見し,その後の研究でこの考え方を発展させた。一連の研究で開発した手法に基づいて,ホプキンズは今では古典的とされる数々の実験を行い,精製加工していない食品には(純粋なタンパク質や脂質,炭水化物とは違って)健康や成長に不可欠な未知の成分が含まれていることを示した。
 
 生化学者のフンク(Casimir Funk)は自身の研究に基づいてこれらの因子がアミン(アンモニアからできる化合物)であると考え,「活性アミン(vital amines)」,略して「ビタミン」と呼ぶことを提案した。後にビタミン(vitamine)のつづりにある「e」は落とされるようになる。これらの栄養分の化学的性質や機能はさまざまで,多くはアミンをまったく含んでいないことがわかったためだ。ホプキンズと,脚気に関する独自の研究がようやく認められたエイクマンは,必須栄養素の発見で1929年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
 
 ホプキンズがビタミンの存在を示したのとほぼ同じころ,別の研究者たちは他の食品が実験動物の健康に与える影響を調べていた。その後の20年間で多くのビタミンが特定され,これらの必須栄養素が私たちの食べている食品に均等に入っているわけではないことが繰り返し示された。
 
 例えば1913年にウィスコンシン大学の研究者,マッカラム(Elmer McCollum)とデイビス(Marguerite Davis)は脂溶性の補助栄養素を発見した。2人はラットにさまざまな食品を与えて成長や健康状態への影響を観察する実験を行い,この新たな物質は卵の黄身やバターに含まれ,ラードや他の脂質には含まれていないことを突き止めた。彼らはこの栄養素を「脂溶性ビタミンA」と呼んだ。これに続く研究によって,食品中のビタミンAが夜盲症や眼球乾燥症を予防することもわかった。メンデル(L. B. Mendel)とオズボーン(T. B. Osborne)のチームがそれぞれ独自に,同様の結果を数週間違いで発表した。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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