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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
ビタミンDの謎を解く
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1. イントロダクション
2. 誤った同定
3. 病気の原因を追う
4. 「タンパク質や塩分とも違う物質」
5. くる病に迫る
6. 動物,植物,あるいはミネラル?
7. ビタミンDとカルシウム調整との関係
8. 働きはカルシウム調節だけではない
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■誤った同定
 科学者にとってビタミンDが長年にわたって謎であり続けたのは,当初それが本来のビタミンだと誤解されていたのが一因だ。ビタミンとは,私たちの体では作り出せず,食品からしか摂取できない必須物質を指す。しかし,食品から摂取する必要のあるビタミンAやB,Cのような微量成分と違って,ビタミンDは皮膚が太陽光にさらされると光反応によって体内で合成される。ただしこれはあくまで前駆体でしかなく,体内で利用できる活性物質になるには2段階の変換が必要だ。まず肝臓で,次に腎臓で変換される。こうしてできたビタミンD活性体は一種のホルモンであり,化学的性質はおなじみのステロイドホルモンに似ている。性ホルモンのテストステロンやエストロゲン,ストレス調節物質のコルチゾールなどがステロイドホルモンの仲間だ。
 
 ビタミンDの多面的な特徴や体内での役割,特にカルシウムとの関係が解き明かされるまでには,3つの異なる研究の積み重ねがあった。初期の研究者たちは壊血病や脚気,くる病などの原因解明と予防に関心を持った。一方,別の研究者は食品の主要成分(タンパク質や脂質,炭化水素,塩分,水分)が健康や成長にどう影響するかを調べていた。これらの研究が結びついて,ビタミン――食品中の必須微量栄養素――という概念が生まれ,ビタミン欠乏が病気につながることが明らかになった。くる病の原因がビタミンDの不足であると特定されたのも,この流れだ。しかし,この“ビタミン”Dの多くの特徴は不可解だった。ビタミンDは実は一種のホルモンであって,調節信号に応じて体内で活性体が作られていたからだ。人間の生理の面からビタミンDホルモンとその役割を解明するには,第3の研究手法が必要となった。ステロールを研究していた有機化学者が開発した手法と知見だ。ステロールは動物や植物の脂質に含まれるアルコール化ステロイド(コレステールもその1つ)のこと。数多くの糸が集まってつづれ織りの模様が浮かび上がってくるように,それぞれの研究で得られた糸口からビタミンDの謎解きの突破口がしだいに見えてきたのだった。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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