遺伝子組み換え作物
1. イントロダクション
2. 新しい種子の交配
3. 従来の品種改良の限界
4. 植物の病気を上手に利用
5. 望ましい遺伝子の探索
6. クラウンゴール菌とBt遺伝子の出合い
. 遺伝的な障害
8. ウイルス抵抗性
9. 除草剤耐性
10. 遺伝子組み換え植物がもたらした問題
11. さまざまな可能性を求めて
12. クレジット
イントロダクション
 何千年も前の昔から,農民たちは害虫や微生物,雑草と戦い続けてきた。作物に被害が及ぶと,家族が餓死しかねない。実際,歴史を振り返っても,植物病の流行や害虫の蔓延が危機をもたらした例が多い。19世紀半ばにアイルランドで起きたジャガイモの大凶作は疫病菌という真菌が原因だった。100万人以上が死亡し,多くのアイルランド人が米国へ移住せざるをえなくなった。

 病害虫による農作物の被害を防ごうと,古代ローマ人は神々に生け贄を捧げた。現代の農民は殺虫剤や除草剤を散布したり,雑草を土に鋤き込んで防ぐ。管理方法を改善しているほか,伝統的な交配技術によって丈夫な作物が育てられるようにもなった。しかしこれら新しい方法の中にはかなり費用がかかったり,欠点のあるものもある。例えば耕しすぎると土壌の侵食を起こす可能性があるし,殺虫剤や除草剤は動植物を絶滅させる原因になるばかりでなく土壌や水を汚染する。

 最近,植物の遺伝子工学が進歩したおかげで,害虫に強いばかりでなく除草剤にも抵抗性を持たせた農作物の種子が手に入るようになった。こうした遺伝子組み換え種子を使えば殺虫剤の使用量が減り,耕作の労力は最小限ですむので,農業が根本から変わり,環境への影響も改善できる。

 社会に役立っている多くの科学的な発明と同様,遺伝子組み換え種子は害虫や雑草の被害を防ごうとする研究だけから生まれたのではない。むしろ,初期の研究者が次のような科学的な疑問を抱いたことの副産物といえる。細菌はどのように植物腫瘍を作るのだろうか。ある種のウイルスはなぜ他のウイルスから植物を守るのだろうか。ある種の細菌が昆虫を殺す力を持っているのはなぜか──といった疑問だ。この記事では,農業を変えつつある植物遺伝子組み換え技術につながった研究の足跡をたどる。科学がいかに役立つか,また,当初は想像もできなかった実用的な成果が基礎研究から生まれてくることを示すドラマチックな物語だ。
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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