■遺伝子診断
1. 遺伝子診断
2. 遺伝子の本質を解明する
3. 遺伝的な誤りが原因となる病気
4. 最先端を行く
5. すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
6. 病気の遺伝子探しに狙いを定める
. 病気の遺伝子の配列を明らかにする
8. 革新的な複製技術の誕生
9. 結腸ガンの遺伝子を追う
10. 変質する医療
11. 遺伝子診断が投げ掛ける社会的ジレンマ
12. クレジット
病気の遺伝子探しに狙いを定める
 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者による1978年の幸運な発見によって,サザン・ブロッティング法は一般的な疾患のいくつかでも使えるようになった。カン(Yuet Wai Kan)とドジー(Andree-Marie Dozy)は鎌状赤血球性貧血症の患者を研究していた。この貧血症は遺伝病で,DNAの1カ所の変化がヘモクロビンの欠陥につながり,痛みを伴って時には致命的な血栓を引き起こす。鎌状赤血球性貧血症の患者のDNAを制限酵素で切断して調べた結果,ほとんどの患者が1万3000塩基対のベータ・ヘモクロビン遺伝子を含むDNA断片を持っていることがわかった。鎌状赤血球性貧血症にかかっていない人の場合は,同じ制限酵素でDNAを切断してもこの特別なDNA断片はほとんど現れない。この断片は正常な場合とはサイズが違っていて,「制限断片長多型(RFLP)」と呼ばれている。

 RFLPはハンチントン病やある種のガンなど,多くの一般的な遺伝障害でも見つかった。病気につながる遺伝子の正確なDNA配列が不明でも,サザン・ブロッティング法でRFLPを調べることによって病気を診断したり,病気にかかりやすいかどうかを判断できるようになった。RFLPには別の利用法もある。RFLPが特定の病気と密接に関係している場合(その病気の人のほとんどすべてが特定のRFLPを持っている場合),RFLPはその病気を引き起こす遺伝子のDNA配列の近くにある。だから,RFLPを含むDNA部位を切り出して調べれば,その病気の遺伝子自体もやがて分離できる。

 特定の障害に関連するRFLPが染色体のどこにあるかを絞り込むには,染色体の着色という方法が利用された。1970年代に開発された染色体の着色法では,塩基のAとT,GとCの相対的な量の違いによって明暗のある帯のパターンを示す。光学顕微鏡でサイズと帯のパターンを調べると,23対の染色体を識別できるうえ,染色体の一部がなかったり,付け加わったり,配置が違うといった主要な染色体異常が明らかになる。例えば眼のガンである網膜芽細胞腫の場合,13番染色体の一部が欠損しているケースが多い。この発見に基づき,この病気に絡むRFLPが13番染色体のその領域で探索された。

 特定のRFLPに観察しやすい目印(蛍光や放射性などの目印)を付けると,どの染色体のどの領域にそのRFLPがあるかを追跡できる。RFLPが染色体上の対となる塩基配列と結びついた後,目印をもとにその位置を調べる。この方法は,インシトゥ・ハイブリダイゼーションとして知られる。
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