■遺伝子診断
1. 遺伝子診断
2. 遺伝子の本質を解明する
3. 遺伝的な誤りが原因となる病気
4. 最先端を行く
5. すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
6. 病気の遺伝子探しに狙いを定める
. 病気の遺伝子の配列を明らかにする
8. 革新的な複製技術の誕生
9. 結腸ガンの遺伝子を追う
10. 変質する医療
11. 遺伝子診断が投げ掛ける社会的ジレンマ
12. クレジット
すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
 病気に関連する遺伝子を探し出すのが難しかったのは,人間の細胞中におびただしい数の遺伝子があるためだ。

 赤血球のヘモクロビンの型に絡む遺伝子の検出が一例だ。クーリー貧血症という重度の貧血症患者はこの遺伝子が欠けている。この病気になると幼児段階で衰弱し,死亡することもあるので,研究者たちは出産前にそれを検出する方法を開発したいと願っていた。

 研究者たちはヘモクロビン・タンパク質の一部となるアミノ酸配列に対応するDNA配列を確定しようとした。しかし,人間の細胞中にある多数の遺伝子から,その病気に関連するDNAをふるい分ける方法はまったくなかった。このため,遺伝子が正常かどうか判断できなかった。

 しかし,スコットランドの科学者,サザン(Edward Southern)が特定の遺伝配列を選び出す強力な手法を1975年に開発し,問題解決の糸口を開いた。制限酵素でDNAを断片に切り分けた後,電流を通じた多孔質のゼリー状物質に通すことによって,断片をサイズ別にふるい分ける。ゲルの中で小さな断片は大きな断片よりも速く動くので,異なる遺伝子を含むDNA断片の位置は違ってくる。分離された断片は相対的な位置関係を変えないようにしてゼリー状物質から紙に移し,それを放射性同位元素の目印がついたプローブ(検出器)と呼ぶDNA分子を含む溶液に漬ける。プローブには,調べようとする遺伝子(例えばヘモクロビン)のDNA配列に合致するDNA断片のクローンを使う。プローブにある核酸のAには遺伝子の核酸のTと結びつき,GならCと結びつくといった具合に,2つのDNA分子の配列が合致すると結びつく。こうしてDNAプローブと遺伝子のDNA断片がくっついて紙に残り,そこが放射性となる。

 これをエックス線フィルムの上に置いておくと,その場所が感光して目に見えるようになる。この簡単な方法は発明者の名をとってサザン・ブロッティングと呼ばれ,ゲル中にある10万以上もの断片からたった1つのヘモクロビン遺伝子のDNAを検出できるようになった。開発後間もなく,クーリー貧血症など原因遺伝子が判明した他の病気の出生前診断に利用されるようになった。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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