■遺伝子診断
1. 遺伝子診断
2. 遺伝子の本質を解明する
3. 遺伝的な誤りが原因となる病気
4. 最先端を行く
5. すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
6. 病気の遺伝子探しに狙いを定める
. 病気の遺伝子の配列を明らかにする
8. 革新的な複製技術の誕生
9. 結腸ガンの遺伝子を追う
10. 変質する医療
11. 遺伝子診断が投げ掛ける社会的ジレンマ
12. クレジット
最先端を行く
 1960年代後半,スイスのアーバー(Werner Arber)や米国ジョンズホプキンス大学のスミス(Hamilton Smith)の研究によって,手詰まり状態を打開する有用な手法がもたらされた。彼らは当初,まったく関係のないように見える研究に取り組んでいた。ある微生物がウイルスの侵入を阻止している仕組みを調べていたのだ。ウイルスDNAがこの微生物に入ると,DNAが細かく切り刻まれ,エンドヌクレアーゼという酵素で不活性化される。スミスはこうした酵素の1つがDNAを特定の配列のところで切断していることを示した。スミスの同僚のナサン(Daniel Nathans)は,これを用いると大きなDNA分子を識別可能な小さな断片に切り刻めることに気がついた。彼はこの方法でサルに感染するウイルスSV40の染色体地図を初めてつくり出した。この地図をもとに,ナサンはウイルスの個々の遺伝子がDNAの中にどう並んでいるかを決め,大きな染色体も同様に研究できると考えた。これが染色体の地図づくりにつながり,ヒトの染色体の特定領域に病気の遺伝子を見つける基礎になった。

 DNAを切断する酵素は「制限酵素」と呼ばれ,スミスが初めて分離してから,その後数十年で1000種類以上も見つかっている。制限酵素は染色体の地図づくりに使えるだけでなく,研究者が必要とする特定のDNA配列を大量に作り出すのにも使えた。制限酵素は通常,DNAの2重鎖をまっすぐではなく,ジグザグ状に切る。この結果,切断された断片の端は短い1重鎖となり,くっつきやすくなっている。この端はリガーゼと呼ぶ別の酵素によって他のDNA鎖と合体する。1973年には,特定のDNA断片を制限酵素を使って切り出し,微生物にそれを組み込めるようになった。微生物が細胞分裂すると,組み込んだDNA断片の複製が本来のDNAの中にできる。微生物はどんどん増殖するので,15時間でDNA断片を10億以上も複製でき,特定のDNA配列を大量に作れるようになった。遺伝的に同一のものを「クローン」と呼び,これを作る方法を「クローニング」と呼んでいる。こうしたDNA断片は研究やDNA検出に使える。
     
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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