■遺伝子診断
1. 遺伝子診断
2. 遺伝子の本質を解明する
3. 遺伝的な誤りが原因となる病気
4. 最先端を行く
5. すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
6. 病気の遺伝子探しに狙いを定める
. 病気の遺伝子の配列を明らかにする
8. 革新的な複製技術の誕生
9. 結腸ガンの遺伝子を追う
10. 変質する医療
11. 遺伝子診断が投げ掛ける社会的ジレンマ
12. クレジット
遺伝子の本質を解明する
 遺伝子診断に向けた大きな飛躍は,遺伝子を含んでいるデオキシリボ核酸(DNA)という分子の発見だった。メンデル(Gregor Mendel)が有名なエンドウ豆の実験を行った19世紀半ば以降,背の高さや色などの形質が次の世代に受け継がれることは知られており,この継承単位は後に遺伝子と呼ばれるようになった。しかし,遺伝子の物理的な性質は1944年にニューヨークにあるロックフェラー研究所のアベリー(Oswald Avery)やマクレオド(Cohn McLeod),マッカーティ(Maclyn MaCarty)がDNAが遺伝情報を伝えている実験的な証拠をつかむまでわからなかった。彼らは無害な微生物が肺炎を引き起こす微生物からDNAを取り込むと,肺炎を引き起こす性質に変わることを示した。この実験は遺伝子がDNAでできていることを示し,多くの研究者は遺伝子が生物にどんな影響を与えているのかを解明するため,DNAの正確な構造決定に乗り出した。
 ロンドンにあるキングス・カレッジの2人,フランクリン(Rosalind Franklin)とウィルキン(Maurice Wilkin)は,細いDNAの糸がエックス線を散乱するパターンを調べた。彼らが撮影した写真は,DNAが規則的ならせん構造になっていることを示していた。この情報とDNA成分の化学的知見をもとに,当時英国ケンブリッジの医学研究評議会にいたワトソン(James Watson)とクリック(Francis Crick)は,その写真の詳細を説明しうる分子モデルづくりに取り組んだ。最終的に彼らが1953年に提案したモデルは,2本のひもがらせん状にねじれあっていて,梯子のようにお互いが分子の“横木”で結ばれているものだった。彼らはそれぞれの横木がアデニン(A)・チミン(T)かグアニン(G)・シトシン(C)の2つの化学的な「塩基対」のいずれかであると提唱した。この2人の若い科学者は,あらゆる生物は親から受け継いだ遺伝情報を,DNAの中のAやT,G,Cの順番で記録しているのだと的確に推定した。彼らはまた,2本のひもがほどけ,複製をつくるのだろうと考えた。この複製は,次の世代に遺伝情報を引き継いでいく基本的なメカニズムだ。
 ワトソンとクリックがDNAの構造を明らかにしてから数年後,米国立衛生研究所のニーレンパーグ(Marshall Nirenberg)とブリティシュ・コロンビア大学のコーラナ(Har Gobind Khorana)は遺伝暗号を解読した。どの細胞もDNAの塩基配列を様々なタンパク質を製造する命令に翻訳している。これらのタンパク質によって細胞の構造が決まり,目の色やガンへのかかりやすさといった機能も決まる。彼らは,3つの塩基の組み合わせ(例えばCGTという配列)が1つのアミノ酸(この場合はロイシン)を示していたり,アミノ酸を長くつなげてタンパク質を構成する作業の開始や停止を示す信号になっていることを突き止めた。
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