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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
■ポリマーと人々
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1. イントロダクション
2. 自然を理解する
3. ポリマー産業の勃興
4. ポリマーを解明した科学
5. ポリマーの黄金期
6. 石油から作るポリマー
. 自然への取り組み
8. 設計されたポリマー
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■ イントロダクション
 1997年4月,シカゴの救急医療専門医であるベーカー(Frank Baker)は人工皮膚の臨床試験の被験者となった。インスリン依存性糖尿病による慢性的な高血糖のために組織に障害が生じた患者を対象にした臨床試験だ。ベーカーは40年以上も糖尿病を患っており,深刻な皮膚潰瘍のため片足を失う瀬戸際にあった。臨床試験の結果はベーカーにとって奇跡に近かった。実験室で培養された人工皮膚はベーカーの傷口を覆って保護したばかりか,組織の治癒を早める化学物質を出した。ベーカーの表現を借りれば,人工皮膚は彼の「足を救った」。

image01 奇跡をもたらしたこの材料はポリマー(高分子)でできている。何種類かの小さな分子がたくさん化学結合してできた長い鎖状の分子がポリマーだ。多くの人にとって馴染み深いポリマーはプラスチック類だろう。食品容器や発泡ビニールシート,ビデオテープなど日用品に広く使われている。だが,ポリマーは自然界にも至るところで見られる。例えば木材,動植物の繊維,骨や角はポリマーだし,細胞核の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)も,細胞膜もポリマーだ。実際,19世紀にポリマー産業が興った当初は天然のポリマーをもとに素材を作っていた。植物セルロースから作った人工セルロイドなどがこの例だ。その後,ナイロンなど新素材の合成が始まり,天然の前駆物質を使わない人工のポリマーが天然素材に取って代わった。今日ではベーカーの人工皮膚のように生体と非生体の境界を越えた製品が登場し,人々の健康向上に大きく役立つ可能性も開かれつつある。

 このような発展の背景には,1世紀以上にわたる細胞生物学や臓器移植の研究に加え,150年以上前から多くの科学者が進めてきた高分子研究の歴史がある。以下の記事ではこのうちごく少数の科学者の業績を取り上げるが,化学と生物学の基礎を理解しようとした科学者たちの研究が現代医療の発展につながったことがわかる。
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