head
BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
■オゾン層の破壊
TOPへ戻る
1. オゾン層の破壊
2. 原因は何か
3. 2つの顔をもつオゾン
4. 地球の大気を探索する
5. CFC研究が本格化
6. 犯人は化学物質
. オゾンホールの出現
8. 相次ぐ証拠
9. 災厄は遠のいた
10. クレジット
お問い合わせ
BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■災厄は遠のいた
 オゾンと大気を相手に40年にわたって繰り広げられた精力的な研究の成果は,CFCの国際的な生産規制という形で花開いた。CFCの排出を段階的に削減し,1999年の排出量を1986年比で半減するよう義務づけた国際条約「モントリオール議定書」が1987年に締結され,150カ国以上が署名した。議定書はその後修正され,CFCの生産・使用は1996年1月に全廃された。しかし,こうした規制が実施されても,CFCが分解してできる塩素は今後10年以上にわたって大気中にたまり続けるだろう。南極上空のオゾン濃度が1970年代の水準に戻るのは21世紀半ばごろになるとみられている。

 地球規模でみれば,オゾン層破壊は今後数十年間は避けがたい事実であり続けるだろう。しかし,科学研究のおかげで問題の早期発見と段階的な対策が可能になり,想定される悪影響も大幅に軽減できた。
 
 1985年に発見されたオゾンホールが翌年には確認され,地球規模でみたオゾン量は1990年代半ばまでに4%ほど減った。しかし,成層圏で起きる化学反応をめぐる当時の積極的な研究がなかったとしたら,2000年時点の減少率は10%近くにのぼるだろう。米国や東欧の上空では冬から春にかけて10%,夏から秋にかけては5%程度のオゾン濃度の低下が測定されているが,対策が遅れていたらもっと大規模なオゾン層破壊を招いていただろう。しかし,大気科学の基礎研究が蓄積され,オゾン層で起きている化学反応をいち早く解明できたおかげで,大幅なオゾン濃度減少は避けられた。こうした知識は適切な政策や規制づくりにも役立った。

 1995年,スウェーデン王立科学アカデミーはローランドとモリーナ,クルツェンにノーベル化学賞を授与した。授賞理由は「人為的に排出された特定の化学物質にオゾン層がいかに脆弱かを明らかにした」ことだ。オゾン層の厚さに影響を与える化学的メカニズムの解明を通じて,「3人の科学者は地球環境問題がもたらす大きな災厄から人類を救い出すのに貢献した」と同アカデミーは指摘している。

 政治家も市民も,地球環境を守るうえで新たな課題に直面しており,基礎研究の役割はますます増大している。基礎研究は新しい展望を開き,迫り来る問題に対して新たな解決策を与えてくれる。
画像をクリックして詳細をご覧いただけます。
年表 
← 前へ 次へ →
原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
このウェブサイトは米国科学アカデミー(NAS)と日経サイエンス社の取り決めをもとに作られています。
Copyright Japanese Edition 2003 by Nikkei Science, Inc. All rights reserved. Copyright 2003 by the National Academy of Sciences. All rights reserved.
2101 Constitution A venue, NW, Wadhington, DC 20418