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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
■オゾン層の破壊
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1. オゾン層の破壊
2. 原因は何か
3. 2つの顔をもつオゾン
4. 地球の大気を探索する
5. CFC研究が本格化
6. 犯人は化学物質
. オゾンホールの出現
8. 相次ぐ証拠
9. 災厄は遠のいた
10. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■地球の大気を探索する
 科学研究ではよくあることだが,CFCによる地球規模のオゾン層破壊を予測・発見し,その原因を突き止めるまでは試行錯誤の連続だった。当初は人類の活動が環境を破壊しているのかどうかや,環境汚染物質の実態はよくわかっていなかった。研究者にとって出発点になったのは,地球大気の性質を基礎から解き明かすことだった。大気の組成や密度,温度の分布などを詳しく探る研究だ。

 化学が学問として認知されるずっと前から,地球の大気組成は人類にとって驚嘆の対象だった。ギリシャの詩人ホメロスは叙事詩オデッセイで「雷鳴がとどろき,稲光が閃くと,空気は硫黄に満たされる」とうたった。雷の発生がもたらす刺激臭について述べているのだが,現在ではその正体がオゾンであることが知られている。

 1800年代末には大気から一酸化炭素が分離され,メタンが存在することも突き止められた。メタンは可燃性のガスで,炭化水素のなかでは構造が最も単純だ。しかし,大気の組成をそれ以上詳しく分析する研究はなかなか進展せず,当時の科学者は大きな壁にぶつかった。大気を構成する気体は窒素や酸素を除くとどれもきわめて希薄で,当時の機器の検出限界を下回っていたからだ。

 だが,捨てる神があれば拾う神もある。1880年代になると,化学物質に特有の“指紋”を特殊な方法で記録し,物質の種類を正確に特定する新手法が登場した。化学物質が決まった波長の光を放出したり吸収したりする現象に着目した手法で,「スペクトル分析」と呼ばれる。
 
image04 1920年代,ドブソン(G. M. B. Dobson)が分光計を開発し,低濃度のオゾンを測定できるようになった。ベルギーの科学者ミゲット(M. V. Migeotte)は1948年,大気をスペクトル分析し,メタンが大気中でありふれた存在で,濃度(体積比)は1ppm(100万分の1)だと突き止めた。その後まもなく0.01~0.1ppmという低濃度の気体も検出可能になった。1950年代末の時点では大気を構成する化学物質が14種類まで特定された。

 こうした進歩にもかかわらず,大気の“ジグソーパズル”を完成する重要なピースはなかなか見つからなかった。それまでに検出された分子はすべて,偶数個の電子をもつ物質だった。物質が化学的に安定かどうかは電子の数で決まる。しかし,大気中には奇数個の電子をもつ分子がわずかながらあり,「フリーラジカル」と呼ばれる。これらは化学反応を起こしやすく,寿命が短い。都市部のスモッグや成層圏オゾンの減少,大気中の不純物の増減といった現象のカギを握っているのも,こうしたフリーラジカルだ。

 フリーラジカルの大気中の残留濃度は1ppm以下ときわめて薄いため,1948年当時は最先端の機器でも検出不可能だった。しかし,まったく畑違いの研究分野で登場した手法が助け船になった。「分析化学」と呼ばれる手法だ。分析化学者たちは大気中の微量ガスを実験室で検出する新しい機器と手法を次々に開発し始めた。

 こうした研究によって,2つの面で大きな進展があった。大気中のガスを分析する精度が高まったことと,検出限界が大幅に下がったことだ。その結果,大気から検出された物質の種類は劇的に増えた。1950年代には14種類しか特定されていなかったが,現在では3000種類を超えている。現在の検出器では1ppt(1兆分の1)というきわめて薄い物質でも検出でき,性能のよい機器ならそれよりも1000分の1以上薄い気体の計測が可能だ。

 現在では人里離れた場所でも数百種類もの人工化学物質が検出されている。興味深いことに,地球大気の変化で重要な役割を担っているのは,こうしたきわめて低濃度の物質であることもわかってきた。その代表がCFCとして知られる一群の物質だ。
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