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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
海洋の秘密を音で探る
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1. イントロダクション
2. 音と振動
3. 音によるナビゲーション
4. 無音の影領域
5. 海洋での音の伝播
6. 音の伝達経路
7. 海洋に耳を傾ける
8. 海洋の内部を音で探る
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
海洋の秘密を音で探る
■ イントロダクション
 地球の表面は70%以上が海で覆われているが,私たちはつい最近まで深海についてほとんど何も知らなかった。むしろ月面のほうがよくわかっていたくらいだ。月は遠く離れてはいるが,深海よりもずっと研究しやすい。というのも,天文学者たちはずっと昔から月面を見ることができたからだ。最初は裸眼で見ていたが,やがて望遠鏡ができた。どちらも光の焦点を結ぶ仕組みだ。そして,さまざまな波長の光をとらえるように調整した望遠鏡を利用することで,現代の天文学者たちは地球の大気の分析はもとより,太陽や数百光年も離れた恒星の温度や組成を調べられるようになった。しかし,地球の海洋を研究するのにこれに相当する装置を利用できるようになったのは20世紀になってからだ。光は真空の中なら何兆kmも先から透過してくるが,海水中ではたいして遠くまで伝わらない。
 
 しかし,水の中を遠くまで伝わる現象といえば,音に勝るものはないことがわかった。
 
image もし水中を伝わる音の非常に優れた特性を利用する手だてが1912年にわかっていたなら,かのタイタニック号は氷山を事前に察知して,大西洋に沈まずにすみ,乗員乗客合わせて1522人の命は救われたかもしれない。このいたましい事故がきっかけとなって,反響位置決定法や反響測距装置の開発が進んだ。音響パルスを出し,それが物体に反射して帰ってくる“こだま”を聞き取ることによって,遠く離れた物体を検知する技術だ。こうした手法に基づいて,潜水艦を発見するさらに精巧な装置の開発が2度の世界大戦を通じて進展した。
 
 現在では音がどのように水中を伝わるかが解明され,その知識がさまざまに利用されている。核爆発や地震,海底火山の噴火を検知するといった利用法だ。そして,ちょうど天文学者が大気の秘密を探るのに光を使うように,音響海洋学と呼ぶ分野の科学者は海洋の温度や構造を調べるのに音を利用している。こうした測定は地球規模の気候変動を理解するうえで非常に重要だ。また,音響生物学の研究者たちも,音を使って海洋哺乳類の挙動や人間が作り出した海中ノイズに対する反応を調べており,こうした研究は海にすむ生物を保護する方策を導くのに役立っている。
 
 これら水中音響を利用する現代的な手法はすべて,空気や水など媒質が異なると音の伝わり方がどう変わるのかを調べた何世紀も前の熱心な研究が基礎になっている。そうした初期の研究には実用的な目的はなく,むしろ自然を基本的に理解したいという強い好奇心が原動力になっていた。しかしながら,後世の研究者がその基礎の上にさまざまな技術を発展させた。いま幅広い応用を見せている音響装置や音響技術は長年にわたる基礎研究が土台となっている。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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