全地球測位システム(GPS)
1. イントロダクション
2. パイロットはどこだ
3. 正確な時間と場所
4. それは基礎研究から始まった
5. 時間の本質を調べる機器
6. ラビの時計
. 実用的な使い道
8. GPSとその将来像
9. クレジット
イントロダクション
 自分はどこにいるのか? この問いは単純だが,これに答えるのは歴史を辿ってみても簡単ではなかった。何世紀もの間,船乗りや探検家は,地球上の自分の位置が正確にわかり,遭難せずに目的地に導いてくれる夢のようなシステムを追い求めてきた。1993年6月26日,ついにその答が簡単に得られるようになった。この日,米国空軍は24番目のナブスター衛星を軌道に打ち上げ,全地球測位システム(GPS)として知られる24個の人工衛星によるネットワークを完成させた。数百ドル程度のGPS受信機さえあれば,すぐに地球上の自分の位置(緯度,経度,高度)を数十mの精度で知ることができる。

 この画期的な新技術が可能になったのは,科学と工学がともに進歩したおかげだが,特に世界で最も正確な時計の開発によるところが大きい。10億分の1秒の精度を誇る原子時計だ。ただし,原子時計を作り出した物理学者たちは宇宙の本質に関する謎に取り組んでいたのであって,まさかこれが将来,地球規模の航行システムにつながるとは夢にも思っていなかった。現在,GPSは人命救助などさまざまな方面で社会に貢献しており,また巨額の利益を生み出す産業に10万人の雇用を創出している。以下の記事は,物理学者クレップナー(Daniel Kleppner)の記事を一部脚色してあり,時間の本質と正確な時間測定法に関する基礎研究がいかにしてGPSの開発に役立ったかを描いている。科学がいかに役立つか,また基礎研究が思いもよらなかった技術をいかに生み出すかを如実に示す好例だ。
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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