現代の通信
1. 現代の通信─レーザーと光ファイバーの技術革新
2. インターネットで救命
3. 可視光を使うか?
4. 20世紀の物理学
5. 半導体レーザー
6. 光ファイバーの登場
. 実用システムの開発
8. 光通信の活躍
9. 活発に続く基礎研究
10. クレジット
活発に続く基礎研究
 実用的な開発が急速に進むなかで,基礎研究も重要な進展を続けた。初期の光ファイバーシステムでは,弱まった信号を再生する増幅器が問題となっていた。入力信号の検出には光素子を使えるとはいっても,それを電流に変換し,増幅し,別のレーザーを駆動して光信号を再生するには何らかの電子回路が不可欠だったのだ。このため電子的な増幅器の能力には限界が付きまとい,レーザーや光ファイバーが持つ能力を十分に生かせなかった。

 しかし1985年,英国サザンプトン大学の物理学者プール(S. B. Poole)が解決策を発見した。エルビウムという元素を光ファイバーのガラスに少量加えると,光だけで動作する増幅器を作れる。エルビウム添加ガラスの短いファイバーを光回線の途中につないで外部からエネルギーを与えてやると,それ自身がレーザーとして働いて,弱まった光信号を電子回路なしに増幅する。

 プールとともにサザンプトン大学で研究していたペイン(David Payne)とミアーズ(P. J. Mears),そしてベル研究所のデサビアー(Emmanuel Desurvire)が,この発見をもとに実用的で効果的な光ファイバー増幅器を開発した。1991年,ベル研究所の研究者たちは,完全な光システムにすれば電気的な増幅器を使うよりも伝送容量を100倍に高められることを示した。その後間もなく,欧州と米国の電話会社がオール光式のケーブルを大西洋に敷設し,太平洋横断ケーブルにも1996年に導入された。

 このように,光通信の進歩は驚くべきもので,急速に進んできた。これらの業績は感動的だェ,さらに劇的な進歩が起きようとしている。今日の光ファイバーシステムは基幹回線に利用され,電話局の間で大量の音声やデータを伝送しているが,産業界の専門家たちは「最後の1マイル」を何とかしようと願っている。電話局から各家庭を結ぶ回線の問題だ。この部分は在来の銅線のままで,音声通話には十分だが高速のデータ通信には不十分だ。

 家庭に高速データ通信回線を提供すること自体は可能で,多くの企業が事業に乗り出してはいるが,今のところ家庭用というには料金が高くつくのが普通だ。個人と外の世界を結ぶ最後の重要な部分についてどんな新技術が誕生するにしろ,既存産業の目先のニーズを超えて自然界の原理を理解しようとする科学者たちの研究がその基礎になるに違いない。

 
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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