現代の通信
1. 現代の通信─レーザーと光ファイバーの技術革新
2. インターネットで救命
3. 可視光を使うか?
4. 20世紀の物理学
5. 半導体レーザー
6. 光ファイバーの登場
7. 実用システムの開発
8. 光通信の活躍
9. 活発に続く基礎研究
10. クレジット
実用システムの開発

 実用レベルの通信システムを作り上げるには,透明度の高い光ファイバー以外にも必要なものがあった。レーザーは100万時間の寿命達成が要求されたが,信頼性がまだ低く,数時間使うと性能が落ちてしまった。また,信頼性の高いレーザーを量産する手だてもなかった。

 レーザーを使わずに,こうした問題をある程度まで避ける道もあった。もっと単純な素子である発光ダイオード(LED)を利用するのだ。LEDはラジカセやビデオデッキで赤や緑の表示に使われており,近距離なら限られた回線数の通話を伝送するのに使えることがわかった。しかし,長距離や海外との通信に利用するには効率や容量が足りない。

 やはり結局は,研究所で開発を続ける必要があった。パニッシュと林が多層結晶の研究で成果をおさめたのとほぼ同時期に,ベル研究所のアーサー(A. J. Arthur)とチョー(A. Y. Cho)が新たな結晶成長方法を考え出した。分子線エピタキシー(MBE)と呼ぶ技術だ。エピタキシーは結晶の表面に別の成分の結晶を成長させることで,MBEは原子レベルの厚さの半導体層を精密に形成できる。この極めて薄い層に電子や光を閉じこめることによって,低電流でも高効率で働くレーザーができる。さらに,MBEで作った新素子は待望の寿命100万時間を達成した。

 ブリストル大学やベル研究所で10年ほど前に行われた結晶成長の基礎研究を頼りに,さまざまな生産方法や異なる化合物半導体の研究が1970年代と80年代を通じて続けられた。1975年には,主要都市の間で光通信を試験運用できるまでにレーザー技術が進展した。アインシュタインの理論的な量子物理を原点に生まれた光ファイバー通信は,いまや量産方法や敷設,修理といった実用面に焦点が移ってきた。技術者たちが特に悩まされたのは修理の問題だった。切れた光ファイバーをつなぎ合わせるのは,髪の毛を切ってから元の毛につなぐようなものだからだ。

 最初の試験は1976年にジョージア州アトランタでAT&Tが行った。144本の光ファイバーを束ねた長さ約63mのケーブルを2組,地下の埋設管に引き込み,曲げても問題が発生しないか調べた。光ファイバーは1本も切れず,曲げても性能は落ちなかった。商業利用は翌年にシカゴで始まり,イリノイ・ベル電話会社の2つの交換局間の地下に敷設された2.4kmの光ファイバーで音声やデータ,画像信号を伝送した。

   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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