現代の通信
1. 現代の通信─レーザーと光ファイバーの技術革新
2. インターネットで救命
3. 可視光を使うか?
4. 20世紀の物理学
5. 半導体レーザー
6. 光ファイバーの登場
. 実用システムの開発
8. 光通信の活躍
9. 活発に続く基礎研究
10. クレジット
インターネットで救命
 1995年4月,北京大学で化学を学んでいる若い中国人女子学生が市内の病院で危篤になった。昏睡状態だが,いろいろ検査しても病因はわからない。彼女を救いたい一心で,1人の友人がインターネット上にSOSを出した。いくつかの医学掲示板やメーリングリストに彼女の病状を投稿したのだ。これらを定期的にチェックしていた世界中の医師がすぐに応答してきた。

 米国の首都ワシントンでは,国務省の医師,アルディス(John Aldis)が中国から のメッセージを目にした。彼は最近まで北京に駐在しており,患者の主治医を知って いた。インターネットを使って,彼は米国内の同僚たちにメッセージを転送した。間もなく,各国の医師も電子メールによる議論に参加してきた。その結果,タリウム(鉛に似た金属)による中毒症状だろうとの見方が強まった。北京での検査の結果,この診断が裏付けられた。通常の1000倍ものタリウムが患者から検出されたのだ。電子メールでのやり取りは続き,治療法が議論され,実際に適用された。学生の病状は次第に改善してきた。各国の医師は1年以上経ったいまも,患者の命を救った電子メディアを通じて病状の情報を交換し,治療を続けている。

 このエピソードは象徴的だ。世界的な通信システムのおかげで,地球のどこにいよ うが隣町にいるかのようにお互いを結べるようになり,通信システムへの社会の依存性も高まった。人々は毎日,電話を使って問題を解決したり,約束をしたり,お金の やり取りをしたり,だれかを雇ったりしている。固定電話や携帯電話を使って話したり,ファクスを送ったり,パソコンをダイヤルアップでインターネットにつないだりして,こうした処理をしている。

 しかし,こうした形態の通信が可能なまでに電話回線の容量が拡大したのは,むしろ最近のことだ。米国の国内通話には100年以上の歴史があるが,国際通話は比較的最近まで難しかった。第2次世界大戦後も,欧州やアジアとの通話に短波を使う時代がしばらく続いた。上空の電離層で反射される短波に信号をのせて送る。3分間通話の回線をつなぐのに交換手が数時間かかることもあったし,つながっても雑音が入って聞きづらい場合が多かった。

 1956年,米国と欧州を結ぶ銅線ケーブルが初めて敷かれ,同時に36通話ができるようになった。この回線数は現在からみればわずかでしかないが,当時としては画期的なことだった。さらにケーブルが敷かれ,1960年代初めには国際電話は年間で500万通話に達した。1960年代半ばには通信衛星による通話が始まり,1980年には国際電話は年間に2億通話に達した。しかし,通信需要が増加を続けるにつれ,既存技術の限界が目立ってきた。さまざまな試みの末,1980年代後半に究極の通信技術が登場した。光そのものを通信手段とする方法だ。
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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