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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■地震学から大陸移動説へ
image 1890年代初期,東京の帝国工科大学校(東京大学工学部の前身)で教鞭をとっていた地質学者のミルン(John Milne)らは精巧な地震計を初めて開発した。日本では地震が頻繁に起こり,時には大災害を引き起こしていたからだ。その数年後,ミルン家は火災に見舞われ,自宅に併設した観測所や日本滞在中のおよそ10年間に集めた地震データも一緒に焼失してしまった。ミルンは落胆したが,へこたれなかった。故郷の英国に帰った後,さらに大がかりな研究に取り組み,英国本土や植民地など当時の大英帝国の27カ所に地震計を配置して,世界的な観測網を19世紀末までに築き上げた。ミルンが死んだ1913年までに観測地点は40カ所に広がり,地震発生のパターンが地球規模で解明され始めた。

 地震計は断層のずれによって突然起きるさまざまな揺れ(地震波)を記録する。前後左右の水平方向に揺れる横揺れ,上下方向の縦揺れなどだ。地震学の草創期に地震波は伝播速度の違いによって2種類に分類できることがわかっていた。P波(Primaryの略)とS波(Secondary)の2つだ。P波は波が伝わるのと同じ方向に物体が伸びたり縮んだりする動きで,地震計にはまずP波が到達して記録紙にゆるい曲線を描く。次に届くのが比較的ゆっくりと伝わるS波で,蛇がうねるように進行方向に直角な振動面をもつ。これが地震計が描く鋭いノコギリ歯形の正体だ。2種類の地震波の到達時刻の差を調べると,測定点から震央までの距離を計算できる。震央とは地震の発生点(震源)の真上にある地表の点だ。地震計が3カ所にあれば,三角測量と同じ要領で震源の位置を割り出し,地図上に正確に示せる。

 ミルンの地震観測網は遠く離れた場所で地震をとらえて震源を割り出す技術の先駆けとなり,地震学ばかりでなく社会に大きく貢献した。しかし,科学者たちは地震計を別の目的にも利用できることに気づいた。それまで謎に包まれていた地球の内部構造を探ることができるのだ。第一次世界大戦の勃発前までに,地震波の伝わり方の違いを調べることで,地球は同じ中心をもつ球面の層が重なってできていることがわかった。いちばん内側に核(コア;当時は固体か流体かは特定できなかった)があり,その上部に岩石がびっしりと詰まったマントルがあり,さらにその上に地殻がある。地殻の厚さは50kmほどだ。
 
image こうした知識が集まり始めたころ,ドイツ人の気象学者,ウェゲナー(Alfred Wegener)が地球の表層に関する大胆な仮説を提唱し,地震学界を驚嘆させた。1915年,ウェゲナーは「大陸と海洋の起源」と題する論文を発表し,南米大陸の凸型に張り出したブラジル周辺と,アフリカ大陸南西部のギニア湾の凹部がジグソーパズルのように組み合わされると提唱した。「かつて2つの大陸はつながっており,その後に漂流・分離した」というのが新説の核心だった。こうした大陸の移動,ウェゲナー自身の言葉を借りれば「大陸の漂流」を裏づけるもう1つの証拠があった。2億7000万年前に生息していた爬虫類の1種,メソサウルス(Mesosaur)の化石が,南米大陸の東部とアフリカ大陸西部でだけ見つかっているという事実だ。当時の地質学者の大半は,この理由として「かつて南米とアフリカをつなぐ陸橋があったのだが,後に海の底に沈んでしまった」との説を支持していた。しかし,ウェゲナーは遠く離れた2つの大陸でメソサウルスの化石が見つかるのは,「2つの大陸が1億2500万年前に分離し,化石の分布域をゆっくりと隔てたからだ」と唱えた。現在の南米大陸とアフリカ大陸はかつて「パンゲア」と呼ばれる超大陸で,それが分離・漂流して現在の姿になったのだと主張した。

 ウェゲナーは大陸を乗せた巨大な岩板が動き回る原動力が何かにについては断定しなかったが,地球の遠心力や,太陽や月の重力が海洋地殻を動かしているのだろうと考えた。これに対し有力な地質学者たちはみな,そうした力では大陸を動かすには弱すぎると強く反論した。しかし1929年,ウェゲナーを指示する考え方が登場した。英国のホームズ(Arthur Holmes)は地殻の下で温められたマントルの対流が必要な力を供給している可能性があると指摘した。マントル下部の岩石状物質が温められると,密度が小さくなって地表近くまで上昇し,これが冷えると沈み,再び温められて上昇する,という仕組みだ。もっとも,このメカニズムを裏づける証拠は集まらず,「大陸漂流説」を支持する科学者は少数だった。
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