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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
人工内耳の進歩
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1. イントロダクション
2. 黎明期
3. 内耳が音を認識する仕組み
4. 耳が聞こえなくなるわけ
5. 人工内耳技術の発展
6. 蝸牛は脳に何を伝えるのか
7. 聴神経が壊れると…
8. 有毛細胞の働き
9. 内耳が発する音
10. 補足記事
人工内耳と聴覚障害者の文化
11. 補足記事
難聴の5大原因
12. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■蝸牛は脳に何を伝えるのか
 人工内耳の改良に結びついたもう1つの重要な基礎研究は,ハーバード大学のキャン(Nelson Kiang)が1965年に始めた研究だった。キャンは音に応じて聴神経を伝わるインパルスを研究し,音の情報が神経と脳でどのように符号化されているかについて多くのことを発見した。例えば,音の周波数が高くなると,これに比例して神経線維が発する神経インパルスの数が増える。ただし,インパルスの発生パターンは不規則だ。また,1つの神経線維は1秒間にせいぜい200回から300回しかインパルスを発生できない。しかし,会話には最高で4000ヘルツの周波数の音が含まれているし,人間に聞こえる音の周波数は最高で2万ヘルツまでだ。これらを考え合わせると,神経インパルスの発生パターンが不規則なうえ発生回数が最高でもこの程度なのだから,1つの周波数の音を完全に符号化するには同じ周波数範囲の音に反応する神経線維の集団を総動員する必要があるに違いない。ユタ大学のエディントン(Donald Eddington)とマーゼニックらは,こうした反応パターンの分布を人工内耳でそっくり再現しようと試みている。
 
 1970年代半ば,ジョンズ・ホプキンズ大学のサックス(Murray Sachs)とヤング(Eric Young)は会話などの複雑な刺激に対する聴神経の反応を研究していた。彼らは脳がさまざまな周波数を分析しているだけでなく,神経インパルスの時間的パターンを巧妙に利用していることを発見した。騒々しい部屋の中で特定の会話を聞き取ったり,音源の位置を立体的に把握できるのは,おそらくこの巧妙な処理が基礎になっている。
 
 これらの発見はまだ人工内耳の設計に組み込まれていないが,別の系列の研究結果が利用されている。ノースカロライナ州にあるリサーチ・トライアングル研究所のウィルソン(Blake Wilson)は,蝸牛が導電性の液体で満たされているため,人工内耳の1つの電極が発した刺激が,本来の標的とはかけ離れた神経線維にまで広がってしまうことに気づいた。混信と呼ばれるこの現象によって音が不明瞭になり,理解が難しくなりがちだ。ウィルソンは人工内耳の電極を同時にではなく1つずつ順に刺激すれば,この問題を緩和できると考えた。これがインターリーブと呼ばれる方式で,1991年に人工内耳の外部装置であるスピーチプロセッサーに導入された。利用者からは満足度が非常に上がったという声が寄せられた。現在の人工内耳には最も多いもので22本の電極がある。1957年にツウィッカーらが示した24のチャンネルのうち2つは,会話の理解にとっては重要ではないと考えられている。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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