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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
人工内耳の進歩
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1. イントロダクション
2. 黎明期
3. 内耳が音を認識する仕組み
4. 耳が聞こえなくなるわけ
5. 人工内耳技術の発展
6. 蝸牛は脳に何を伝えるのか
7. 聴神経が壊れると…
8. 有毛細胞の働き
9. 内耳が発する音
10. 補足記事
人工内耳と聴覚障害者の文化
11. 補足記事
難聴の5大原因
12. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■人工内耳技術の発展
 感音難聴の人々の大多数は聴神経に何の異常もないが,有毛細胞がない。それなら,有毛細胞が発する電気信号を代わりに出してくれる装置ができないだろうか。研究者たちがこう考え始めたのは1950年代後半のことだった。人工内耳を作ろうという努力の前には,たくさんの懐疑的意見や厳しい技術的困難が立ちはだかった。しかし幸運なことに,コルチ器官で発生し聴神経を伝って送られる電気信号に関して,すでにかなりのことがわかっていた。1957年にハーバード大学のツウィッカー(Eberhardt Zwicker)とスティーブンズ(Smith Stanley Stevens),フロトープ(Gordon Flottorp)の研究が完結し,聴覚系が音を24のチャンネルに系統化していることがわかった。また,同じくハーバード大学のデービス(Hallowell Davis)とガランボス(Robert Galambos)が行った動物実験から,コルチ器官と聴神経が音の系統化で基本的な役割を果たしており,聴神経のある部分が低い音に関する情報を伝え,隣の部分がそれより少し高い音に関する情報を伝えるというように,規則性があることがわかった。
 
 しかし,初期の実験段階の人工内耳は,特定の周波数の音を特定の部分に沿って伝達するという蝸牛の構造を利用していなかった。いくつかの研究チームが,聴覚障害を持つボランティアの蝸牛にシングルチャンネルの電極を埋め込む実験を始めた。研究者もボランティアも,このような未完成の装置では十分な情報が伝わらず,話し言葉を聞き分けるのは無理だと承知していた。しかし,1930年代にプリンストン大学のウィーバー(Glenn Wever)とブレイ(C. W. Bray)が行った研究に基づき,電極の放電のタイミングによって音の高さを判断することは可能だろうと考えていた。そして実際に,ボランティアたちはシングルチャンネルから膨大な聴覚情報を引き出すことができた。会話はほとんど理解できなかったが,例えば聞こえた言葉が1音節なのか2音節なのかがわかったし,また神経信号のタイミングによって音の高さをある程度は感じることができた。これだけでも読唇術を補う手段として十分に役立った。
 
 この驚くべき成功が研究者たちを勇気づけ,1970年代初めにはいくつかのグループが多数の電極をもつ精巧な装置の開発に取り組んでいた。しかし,電極は何本必要なのだろうか。聴神経には3万本の神経線維がある。会話の内容を理解できるような音を再現するには,すべての神経線維を1本ずつ刺激する3万本の電極が必要なのだろうか。だとすると,それは明らかに実現不可能だ。しかし,ツウィッカーらの研究によると,24チャンネルで十分だ。また,カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマーゼニック(Michael Merzenich)は意外なところで行われていた研究の結果から,このシステムをさらに簡略化した。
 
 当時はAT&Tの研究部門だったベル研究所では,会話の音を理解できるように再現するには電話線を通じてどのくらいの情報を送る必要があるかを研究していた。現在はラトガーズ大学に在籍するフラナガン(James Flanagan)は,周波数帯域別にわずか6つか7つのチャンネルに分けただけでも会話を理解できることを示した。マーゼニックらは,会話を電話線で送るために6つか7つのチャンネルしか必要ないのなら,人工内耳にも同数の電極があれば十分だろうと考えた。
 
image1 そのような人工内耳は安全なのだろうか。医師や研究者の多くは,多数の電極を備えた人工内耳を電信柱のようなものと思い,そんなものを内耳に入れれば繊細な神経節細胞が破壊されてしまうだろうと考えた。神経節細胞は有毛細胞からの信号を聴神経経由で脳に伝える役割を果たしている。しかし,マーゼニックらが一連の動物実験を行い,人工内耳が神経節細胞を傷つける心配がないことを証明した。それどころか,神経節細胞は人工内耳の刺激によって再活性化した。
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