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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
人工内耳の進歩
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1. イントロダクション
2. 黎明期
3. 内耳が音を認識する仕組み
4. 耳が聞こえなくなるわけ
5. 人工内耳技術の発展
6. 蝸牛は脳に何を伝えるのか
7. 聴神経が壊れると…
8. 有毛細胞の働き
9. 内耳が発する音
10. 補足記事
人工内耳と聴覚障害者の文化
11. 補足記事
難聴の5大原因
12. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■内耳が音を認識する仕組み
 17世紀,フランスの解剖学者デュベルネ(G. J. Duverney)は耳に一組の共鳴器があると提唱した。19世紀になると,私たちが音の高低を聞き分ける能力の背景に何らかの共鳴器が存在していると多くの科学者が考えるようになった。共鳴器説を大きく発展させたのはドイツの科学者ヘルムホルツ(Hermann von Helmholtz)だった。コルチ器官を支える基底膜に線維があり,これが特定の周波数の音に共鳴して振動するのだとヘルムホルツは考えた。ピアノ線が特定の周波数に共鳴して振動するのと同じだ。彼は小骨に近い部分が高い音を,遠い部分が低い音を感じるというように,周波数に応じてコルチ器官の異なる部分が音を“聞く”と考えたが,これは正しかった。しかし,蝸牛の働きについては未解明の疑問が数多く残っていた。蝸牛で何が起きているかの解明は,ハンガリーの物理学者ベケシー(Georg von Bekesy)による一連の見事な実験を待たなければならなかった。
 
 蝸牛を調べるのはとても難しい。この螺旋状の器官は小さくて中は見えず,さらに体中で最も硬い骨である側頭骨に埋まっているからだ。そこでベケシーは蝸牛の拡大模型を作り,1928年に実験を始めた。彼はまっすぐなガラス管を使った。蝸牛の螺旋構造を伸ばし,透明にしたものと考えればよい。ガラス管の中央を仕切るようにゴム製の膜を取り付け,蝸牛を2つの部分に分けている柔らかな基底膜を模擬した。そしてガラス管を水で満たし,一端から音の振動を伝えると,中耳の小骨によって蝸牛内の体液が振動するように,ガラス管内の水が振動した。
 
image ベケシーは音を送り込むたびに模型の基底膜に波が伝わることに注目し,この波を「進行波」と名づけた。どんな高さの音による進行波でも基底膜の全体が変形するのだが,蝸牛には音程を聞き分ける構造が備わっていることがわかった。高い音は蝸牛の入り口付近の膜を最も大きく変形させ,低い音では反対側の変形が大きくなるのだ。ベケシーは死体から取り出した蝸牛の基底膜にも同じ変形が起こることを確認した。基底膜が変形すると,有毛細胞の先端にある微小な不動毛が蓋膜という別の膜に向かって曲がった。基底膜が最も大きく変形した場所では,不動毛の曲がり方も最も大きくなった。これが音の高さに応じてコルチ器官の異なる部分が音を“聞く”仕組みだとベケシーは結論づけた。聴覚を生物物理学的に研究した独創的な業績によって,ベケシーは1961年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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