きょうの日経サイエンス

2011年10月3日

ノーベル生理学・医学賞は自然免疫の研究に

2011年のノーベル生理学・医学賞は自然免疫に関する研究で,米スクリプス研究所のボイトラー(Bruce A. Beutler, 54),仏ストラスブールにある分子細胞生物学研究所のホフマン(Jules A. Hoffmann, 70),米ロックフェラー大学のスタインマン(Ralph M. Steinman, 68)の3氏に贈られることになりました。
iPS細胞の山中伸弥・京都大学教授の受賞はお預け。また,自然免疫の研究では審良静男・大阪大学教授の業績もノーベル賞に値すると目されていましたが,残念ながら選に漏れました。

 

受賞業績はボイトラーとホフマンが「自然免疫系の活性化に関する発見」,スタインマンが「樹状細胞と,その適応免疫系における役割の発見」です。
ボイトラーとホフマンに賞の半分が,スタインマンに残り半分の栄誉が贈られます。ただ,スタインマンは9月30日,ノーベル賞受賞の報を聞く前に膵臓がんで亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。
 
ホフマンらは1996年,ショウジョウバエがカビの感染から身を守るのにTollと呼ばれるタンパク質の遺伝子がかかわっていることを明らかにしました。Tollはもともと,ハエの発生過程で背中と腹の分化に関係する遺伝子として発見されたものです。90年代になって,このTollがヒトのインターロイキン1受容体の内部領域とよく似ていることがわかり,免疫との関わりが示唆されましたが,その具体的な作用は謎のままでした。ホフマンらはTollに変異があるショウジョウバエは免疫がうまく働かず,カビに感染して死んでしまうことを見いだしました。またTollタンパク質が病原性微生物の検出に関与しており,その活性化が免疫の発動に不可欠であることを突き止めました。
 
Tollと免疫機構との関連がわかると,その詳細なメカニズムについての研究が一斉に始まりました。ボイトラーらは1998年,敗血症を起こすバクテリアのリポ多糖類に結合する物質を探しているうちに,リポ多糖類に抵抗性があるマウスでは,ハエのToll遺伝子によく似た遺伝子に変異が起きていることを発見。正常なマウスはリポ多糖類を注射すると敗血症ショックで死にますが,変異マウスには異常が生じません。この遺伝子が作るToll様受容体は実はリポ多糖類の受容体でもあり,リポ多糖類に結合すると炎症を引き起こす信号が出ますが,リポ多糖類が極端に多い場合は,敗血症の引き金となることがわかりました。つまり,ハエも哺乳類も同じような分子によって,病原微生物が入ってきた場合に自然免疫のスイッチを入れていたのです
 
現在ではヒトでも様々なToll様受容体が見つかっており,感染に対する抵抗力や慢性の炎症疾患のリスクなどに関わっていることが明らかになってきています。
 
一方のスタインマンは1973年に新タイプの免疫細胞を発見し,これを「樹状細胞」と名づけました。この樹状細胞が,適応免疫(獲得免疫)系で主要な働きを演じているT細胞の活性化に重要なのではないかとみて,これを実験的に確認したのが大きな仕事です。この研究が発展して,免疫系が様々な物質を検知した際に免疫反応を発動するかしないかを,自然免疫系の樹状細胞が適応免疫系のT細胞に指令することによってコントロールする仕組みがわかってきました。

本誌記事のなかでは
スタインマンについては
ガン免疫療法の切り札 樹状細胞」(2003年2月号)

ボイトラーとホフマンについては
もうひとつの防御システム 自然免疫の底力」(2005年4月号)
にそれぞれ関連の記述があります。

 

なお,現在発売中の最新号(2011年11月号)の特集「世界を変えた日本の頭脳 ノーベル賞に近い人たち」で審良教授と自然免疫に関する研究を詳しく紹介しています。「審良静男:自然免疫の真の姿を明かす」をご覧ください。

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