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ゾンビ火災の実態〜日経サイエンス2023年12月号より

泥炭層でくすぶるのではなく,木の根が燃えている例が多いようだ

山火事のなかには地中に埋もれて消えないものがある。北半球の夏が終わるころには気温が下がり日も短くなって山火事は収束に向かうものの,この「ゾンビ火災」が地中で冬中くすぶり続け,春に再び燃え上がる場合がある。この現象の原因と生態系への影響を調べた初の現地調査によって,地中で意外なものが燃えていることが判明した。

衛星画像に基づく2021年発表の研究から,越冬型のゾンビ火災が北極圏の森林で増えていることがわかった。おそらく気候変動の影響だ。また,衛星画像の視覚的手がかりをもとにアラスカとカナダ北部の越冬火災の場所を特定できることがわかった(後に消防士が地上で現場を確認した)。加ウィルフリッド・ローリエ大学の生物学者バルツァー(Jennifer Baltzer)らによる今回の研究では,これらのデータを用いて9カ所の越冬火災現場を選び,そこの土壌と植生を詳しく調べた。

乾燥した高地で木の根が燃えている
去る4月の欧州地球科学連合総会で発表された結果は驚きだった。越冬火災は炭素に富む有機質土壌である泥炭層でくすぶり続けるとする従来の仮説に反し,ほとんどが木々の密集した乾いた高地で燃えていることがわかった。泥炭ではなく樹木の根が燃えてくすぶっていることをうかがわせる。「予想外だった」とバルツァーはいう。

これらの発見は,地中の火種から放出される炭素が従来考えられていたよりもおそらく少ないこと,土壌の健全性と植物の再生に及ぼす影響も小さいことを意味している。加えて,これらの火種は林冠に届かないため(その代わり根を燃やして木を倒す),燃えた植物の総量は,研究チームが現地調査した単シーズン限りの森林火災の多くに比べて少なかった。「炭素放出と生態系への影響という点では,朗報といえるだろう」とバルツァーはいう。

しかし,ゾンビ火災が地球規模の炭素放出にどう影響しているかはまだ不明だ。「地中で木の一部が燃えている場合,太古の炭素を放出しているわけではない」と英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの環境地理学研究者スミス(Thomas Smith,この研究には加わっていない)はいう。だが,昔から埋もれていた炭素が燃える泥炭火災がシベリアなど各所で現に起こっているとも指摘する。それらの場所では冬に雪から煙が立ち上り,泥炭層のゾンビ火災が懸念されている。(続く)

続きは現在発売中の2023年12月号誌面でどうぞ。

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