長期保存の移植臓器をうまく解凍〜日経サイエンス2023年12月号より
金属微粒子と交代磁場で均一に加熱する
毎年,移植用に提供された多くの臓器が廃棄されている。臓器提供の連絡を受けた医師は適合するレシピエントを大急ぎで探すが,移植のスケジュールは時間単位で進み,多くの臓器が使えなくなる。最近,ある研究グループがラットの腎臓を100日間冷凍保存し,解凍後に別のラットに移植することに成功したとNature Communications誌に報告した。
これまでも,「ガラス化」という凍結法を用いて臓器を数十年間保存することは可能だった。細胞内に氷の結晶が成長して細胞を破壊するのを,急速冷凍によって避ける方法だ。だが,細胞を傷つけずに急速解凍することはほぼ不可能だった。「外側が内部よりも急速に加熱されると,熱応力が生じる。角氷を水中に落とすと氷が割れる音がするのがよい例だ」と,この研究論文を執筆したミネソタ大学の移植外科医フィンガー(Erik Finger)はいう。「真ん中にひびが入った臓器は機能しなくなる」。
今回はガラス化処理の直前に,ラットの腎臓の血管系を酸化鉄のナノ粒子と,臓器を非常な低温で保存することを可能にする新開発の凍害保護液で満たした。そして100日後,交代磁場によってこれを解凍した。この磁場がナノ粒子を振動させて組織を均等に温める。その後,臓器からナノ粒子と保護液を洗い流し,別のラットの腎臓をこの移植用臓器で置き換えた。移植を受けたラットは医療支援なしで生存できた。
ガラス化した動物の臓器をうまく解凍して移植した研究が以前に1件だけあった。10分間ほどガラス化状態にしたウサギの腎臓で,移植後の機能は貧弱だった。保存期間を劇的に延ばし新たな解凍法を開発したのが今回の研究チームの「最大の功績」だと,非営利団体・臓器保存アライアンス(OPA)の会長兼最高科学責任者エリオット(Gloria Elliott)はいう。「以前の研究(ウサギの事例)を再現できた例はこれまでなかった。待望の成果だ」。(続く)
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