ボトルフリップ,見事な着地〜日経サイエンス2023年12月号より
SNSで流行中のこの遊びのおかげで,新たな流体力学的効果が見つかった
よく弾むボールとペットボトル,高速度カメラを使った実験で,ボトル内の水を旋回させておくと,容器を落とした際の跳ね返りの高さを抑制できることがわかった。
ペットボトルの跳ね返りを抑えるこの実験がソーシャルメディアで流行中のチャレンジゲームのように聞こえるとしたら,それは実際にその通りだからだ。チリのオヒギンス大学で流体力学を研究している物理学者グティエレス(Pablo Gutiérrez)は,息子から「ボトルフリップ」のSNS動画を見せられたのをきっかけに容器の跳ね返りに興味を持つようになった。ボトルフリップは中身が半分ほど入ったペットボトルを投げ上げ,縦方向に回転させて着地させる遊びだ。「彼はこの達人になった」と,共同で実験にあたったサンティアゴ大学の物理学者ゴルディージョ(Leonardo Gordillo)は笑う。「たくさんのボトルを投げていたよ」。
2人の物理学者はボトルフリップを研究室に持ち込んだ。彼らのチームは半分に切ったゴムボールをボトルの底に接着し,反発力を強めた。そして次に重要なことに気づいた。ボトルを投げる前に内部の水を旋回させておくと,跳ね返りがはるかに小さくなるのだ。おそらく流体力学的な効果のためだと考えられる。これを検証するため,研究チームはボトルを科学的な精度で自転・落下させる装置を作って実験し,落下の様子を毎秒2000フレームの高速度カメラで撮影した。実際,水の旋回が速いほどボトルの跳ね返りは小さくなった。Physical Review Letters誌に発表。
Credit: Brown Bird Design; Source: “Swirling Fluid Reduces the Bounce of Partially Filled Containers,”
by Klebbert Andrade et al., in Physical Review Letters, Vol.130; June 16, 2023
「本当だ。私もやってみた」と,サウジアラビアにあるアブドラ王立科学技術大学の流体物理学者トラスコット(Tadd Truscott)はいう。彼の場合は水を旋回させるのもボトルを投げるのも手でやったが,「それでもうまくいく」。
急カーブを曲がる車に乗っている人のように,ボトル内の旋回する水は容器の側面に押し付けられ,内壁に沿って一様に上向きに押し上げられる。ボトルが地面にぶつかると,押し上げられていた水はボトルの底の中央にある一点をめがけて落ちていく。「すべての水がこの一点を通り過ぎようとするが,それは不可能だ」とトラスコットはいう。
行き場を失った水は再び上向きに飛び上がる。落下するボトルの運動量のほとんどが,ボトルの跳ね返りではなくこの鉛直方向の噴流に振り分けられるので,衝撃が抑えられる。中身を旋回させたボトルで着地がうまくいきやすいのはこのためだ。その後,回転する噴流水は多くが竜巻のようにラッパ状に広がって飛散し,ボトル上端にぶつかって跳ね返るものは少ない。(続く)
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