ロリスの分類〜日経サイエンス2023年11月号より
ピグミースローロリスは実は2種
目を丸く見開いたロリスは樹上にすむ小型の哺乳動物で,地球上で最も奇妙な霊長類の一種だ。肉を腐らせる毒を分泌し,これを縄張り争いの際に使う。そして,森にすんでいて夜行性なので,調査が極めて難しい。「10夜連続で森に出て,1匹も見なかったことがある」とアメリカ自然史博物館の保全生物学者ブレア(Mary Blair)はいう。
実際,情報があまりに少ないので,「誰かがロリスを観察するたびに新発見がある」とブレアはいう。新種が見つかることもある。一般に霊長類は非常に詳しく調べられているため,新種の発見はめったにない。ブレアらは最近,ピグミースローロリスが実は2種に分けられることを発見し,Genes誌に報告した。片方はひょろっとして鼻づらが長く,ベトナム南部とラオス南部,カンボジアに生息している種で〔学名は従来通りXanthonycticebus pygmaeus(クサントニクチセブス・ピグマエウス)〕,他方はふわふわした毛で覆われた団子鼻でベトナム北部とラオス北部,および中国南部に生息し,現在はX.インテルメディウス(X. intermedius)と呼ばれている。
“醜い”ロリスと“かわいい”ロリス
インテルメディウスを別種として最初に提唱したのは動物学者ダオ(Dao Van Tien)で1960年のことだったが,標本の混同もあって軽視された。だが,別々の2種が存在するのではないかとの疑いも続いた。例えば2016年,日本のあるペット業者が英オックスフォード・ブルックス大学の保全生物学者ネカリス(Anna Nekaris,今回の研究論文の共著者)に,ピグミースローロリスには“醜い”ものと“かわいい”ものの2種類があり,客は“かわいい”ロリスを好むと語った。
研究チームによる遺伝子解析で,これらの観察が正しいとついに裏づけられた。研究チームは野生のロリスを求めてジャングルを探し回るのではなく,ベトナムと米国の博物館にある41体の標本からDNAを抽出した。この配列を解析した結果,北部と南部のピグミーロリスは別種であり,120万年前に直近の共通祖先から分かれたことが示された。(続く)
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