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アインシュタイン・タイル発見〜日経サイエンス2023年11月号より

ある数学愛好家が発見した帽子に似た図形に数学界が沸き立っている

英ヨークシャー在住の数学愛好家スミス(David Smith)が,とある13角形を発見した。数学者による探索を何十年もかいくぐってきた図形だ。いかつい帽子に似たその形(次ページの図で太線で描かれている図形)は,ドイツ語で「1個の石」を意味する「アインシュタイン」という名で呼ばれている。アインシュタイン・タイルを使うと浴室の床を隙間なく敷き詰めることができ,しかも同じパターンが繰り返されることが決してない。浴室の床だけでなく,どんな平面でも,それが無限に広がっていても,これが可能だ。

非周期的にしか敷き詰められないタイル
数学者は長年,敷き詰めが必ず非周期的になる「強非周期的タイル張り」を実現するタイル形状を探し求めてきた。まず見つかったのは形状が様々に異なるタイルのセットだった。1964年に発見された最初のセットは2万426種類のタイルを要したが,後に103種類にまで減った。1974年には数学者ペンローズ(Roger Penrose)が繰り返しパターンがないモザイクを作ることができる2種類のタイルを発見した。

では,1種類の図形による強非周期的タイル張りはありうるのか? これを可能にする図形として想定されたのがアインシュタインだ。平面充填の専門家で現在はモラビアン大学教授から引退したシャットシュナイダー(Doris Schattschneider)は,そうしたアインシュタインが発見される可能性について懐疑的だった。「だから,それが見つかっただけでなく,こんなに単純な形だったのは非常な驚きだった」という。「私にとっては思いもよらない異常事態だ」。

ポリフォームパズルソルバーというソフトウエアを使って様々な図形を試していたスミスが2022年11月に発見したこのタイルは,驚くほどエレガントだ。8つの直角凧形(図で細線で描かれている四角形)からなり,多くの数学者が予想していた複雑でよじれた形とはまるで違っていた。

スミスは加ウォータールー大学のコンピューター科学者カプラン(Craig Kaplan)にメールを送った。カプランはこの図形の潜在力に気づいた。この図形が生み出すモザイクは繰り返しパターンがないように見えたものの,モザイクを無限に広げても繰り返しが決して生じないことを数学的に証明する必要があった。そこで2人はソフトウエア開発者のマイヤーズ(Joseph Samuel Myers)とアーカンソー大学の数学者グッドマン=ストラウス(Chaim Goodman-Strauss)に協力を求めた。どちらも平面充填と組み合わせ論の研究に取り組んだ経験があった。(続く)

続きは現在発売中の2023年11月号誌面でどうぞ。

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