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地球の水の起源〜日経サイエンス2023年11月号より

一部は隕石によって運ばれてきたのだろうが,その量に関しては議論が続いている

2021年2月があと数時間で終わろうとするころ,13kgほどの岩の塊が秒速13kmあまりで地球の上層大気に突入した。成層圏を猛スピードで通過する間に,その表面は突入の摩擦熱によって真っ黒に炭化した。岩の軟らかい部分が炎の中で剥がれ,巨大な火球が夜空でたいまつのように燃え上がった。

その最も大きな破片が英イングランドの町ウィンチカムの私道に落下したとき,重さはわずか320gほどになっていた。落下から12時間以内に回収されたこの物質は,これまでに調べられたなかで最も“新鮮な”隕石のひとつだ。「これ以上ないくらいに元の状態を保っている」と,ロンドン自然史博物館の惑星科学者キング(Ashley King)はいう。

このウィンチカム隕石は「炭素質コンドライト」というまれな種類に属する。このタイプの隕石は地球にまつわる最大級の謎を解く助けになる。地球上の水はどこからやって来たかという謎だ。研究者は一部の水が隕石によって運ばれてきたと考えているが,その量に関しては議論が続いている。雨を降らせるように大量の水を運び込んだと主張する研究者もいれば,隕石の寄与は大海の一滴だったという研究者もいる。


地球の豊かな水は宇宙から見ると感動的だが,その起源は完全には明らかになっていない。


誕生直後の地球は湿っていた!?
地球は,惑星になる前は若い太陽を周回する塵の雲だった。塵は降着という過程を経て小石になり,さらに小石どうしの衝突・合体が始まった。衝突・合体を繰り返してしだいに大きくなり,最終的に惑星になった。

初期の地球は現在のような「ペイル・ブルー・ドット(淡く青い点)」ではなかった。その温度は約2000℃に達し,地表のすべての水を沸騰させて宇宙空間に散逸させるのに十分すぎる温度だった。このため生まれたばかりの地球はカラカラに乾いていたと考えられていたが,Nature誌に最近発表された研究は誕生直後の地球がかなり湿っていた可能性を示唆している。論文を共著したカーネギー研究所の地球化学者シャハー(Anat Shahar)らは,地球に似た数多くの系外惑星が,形成途上の降着が起こっている段階で水素に富む大気に覆われていることに気づき,そのような大気を加えて地球形成過程をシミュレーションしてみた。その結果,従来の仮説に反して多くの水が地球大気にとどまり,外部地殻の至るところにマグマの川が流れているにもかかわらず,大気中の水が岩石マントルの内部に閉じ込められることが示された。(続く)

続きは現在発売中の2023年11月号誌面でどうぞ。

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