SCOPE & ADVANCE

“食べられる”ドローンで救命〜日経サイエンス2023年11月号より

自分の顔ではなく翼を食料として与える「ヒーロー」が活躍するかもしれない

食べられる材料を使ってロボットを作る研究が進んでいる。電気通信大学などの研究チームはビスケットで翼を作ったドローンを開発した。災害時に遭難者を発見し,自らが非常食となる。研究チームは,自分の顔ではなく,翼を与える「ヒーロー」が活躍する未来を思い描いている。食品工場向けのロボットハンドをゼラチンで作り,金属片などの混入を防ぐといった研究も進む。耐久性などの課題を乗り越えられれば,「食べられるロボット」が様々な場所に広がりそうだ。

遭難者を救う非常食に
山奥で動けなくなった遭難者をドローンが発見。救助隊が到着するまでにはまだ時間がかかる。食料が尽きているであろう遭難者にすぐに食料を届けられないか――。

電気通信大学の新竹純准教授は,スイス連邦工科大学ローザンヌ校などと共同で,こんな場面で役立つドローンを開発している。食べられる材料で翼を作り,救助までの非常食にすることで遭難者の生存確率を高める。積み荷に食料を載せたドローンを使うよりも届ける食料を多くしたり機体を軽くしたりしやすい。働いたり移動したりできる「ロボットのような食べ物」(新竹准教授)が究極の目標だ。

米のビスケットで試作した翼は全長70cmほどで,食べると約300kcalを摂取できる。積み荷として水を80gほど運ぶこともできる。機体全体のうち食べられる重量は約半分だが,改良で75%ほどに高められるとみている。通常のドローンと比べ,運べる食料の量は2倍以上になる。


試験飛行に成功したドローン 米のビスケットをレーザー加工機を使って六角形に切り出し,ゼラチンでつなぎ合わせて翼を作った。プロペラなどの部品を付ければ,空飛ぶ「ヒーロー」の完成だ。(画像:新竹純)



ビスケットを六角形に加工してゼラチンでつなぎ合わせ,翼としての使用に耐える強度を実現した。ビスケット製の翼にプロペラやバッテリーなどの部品を取り付け,飛行機型ドローンを作製した。

屋外で性能を試したところ,秒速10mほどで飛行させても翼は壊れなかった。今後,耐久性や飛行時間を向上させて実用化を目指す。新竹准教授は「将来的には機体全体を食材で作りたい」と意気込む。(続く)

 

続きは現在発売中の2023年11月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む