人工指触覚センサー〜日経サイエンス2023年10月号より
物体の表面をツンツンしてその内部構造を検知する
人間の指は物体の表面の感触を検知するだけでなく,表面下についても多くのことを教えてくれる。例えば握手の際に本当に強く握れば骨の場所がわかるし,指で何回も十分につつけば腱の位置を突き止めることもできる。
この能力からアイデアを得た科学者チームが,物体の表面に触れることで内部構造を3D地図に描き出す指状の装置を開発した。これに対し初期の触覚センサーは物体の外部形状と剛性,質感を検知するもので,表面下の詳細はわからなかった。研究チームは人体組織の模型と電子回路を今回の装置でスキャンした試験結果をCell Reports Physical Science誌に報告している。
「この人工指は材料特性の評価と医用生体工学の分野で心躍る応用の見込みがある」と今回の論文を共著した中国・五邑大学の工学者チェン(Zhiming Chen)はいう。「ロボットや義肢に組み込める可能性もあり,それが私たちの次の研究テーマだ」。
圧力を変えながら何度もつつく
この新しい“指”は炭素繊維を用いた触覚センサーを備えており,より硬い物質に押し付けられた場合ほど強い信号を返す。装置を物体の表面を走査するように動かし,各地点で表面を数回つつくのだが,この際に各回で圧力を増して触覚を感じ取る。これによって,軟らかい材料の内部に硬い層があるなど,表面下の詳細を明らかにできる。「この人工指で硬い物体を押しても形は変わらないのに対し,軟らかい物質は十分な圧力で押すと変形する」と,論文の上席著者となった五邑大学の工学者ルオ(Jian Yi Luo)はいう。「この情報をそれが記録された位置とともにコンピューターに送り,リアルタイムの3D画像として表示する」。
X線やPET,MRI,超音波など他の撮像技術にはそれぞれに一長一短がある。X線には健康リスクがあり,他の選択肢は可搬性や迅速さを欠く。そして多くは高価だ。今回の新装置は超音波に比べ著しく安くなるとは思いにくいが,解像度は上回るだろう。「従来とは別の方法であり,用途によってはこのほうが有利になる」と英ロンドン大学ユニバーシティカレッジの工学者サブラマニアン(Sriram Subramanian,この研究には関わっていない)はいう。「プリント電子回路の画像検査を超音波でやるのは簡単でないと思う」。
人体組織の模型を使った試験では,骨と血管の位置を正確に特定できた。また,軟らかい材料に封入したフレキシブル電子回路を対象にしたテストでは,回路の断線や誤って開けられた穴を検知した。(続く)
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