洗い流すだけで触媒活性が回復〜日経サイエンス2023年10月号より
CO2と水素からメタンを合成する反応に応用,装置の保守と管理を簡単に
大阪大学の研究グループは地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)から都市ガスなどの主成分であるメタンを合成する装置を開発した。ニッケルを含む合金でできた筒の内部に水酸化ナトリウムの水溶液を流すだけで合成能力が回復するため,保守と管理の手間を減らせる。企業と装置を大型化して実用化を目指す。
CO2と水素からメタンを合成する反応は「メタネーション」と呼ばれる。ごみ焼却施設や製鉄所,火力発電所から出るCO2と,再生可能エネルギーで発電した電気で水を分解して作った水素を原料に,都市ガスや天然ガスの主成分であるメタンを作る。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が企業の研究を支援している。
メタネーションはニッケルの触媒を使うのが一般的だ。ニッケルの微粒子を詰めた管や微粒子を多数敷き詰めたセラミックスの装置にCO2と水素を流し,300〜500℃に加熱してメタンを合成する。ただ,使い続けると多数の微粒子が塊を作って表面積が小さくなり,触媒が失活してしまう問題があった。
開発した装置は直径が23mm,長さが70mmの筒状で,ニッケルとクロム,鉄,モリブデンの粉末を原材料に,レーザーを使うタイプの金属3Dプリンターで成型する。 成型した後に水酸化ナトリウムの水溶液につけて電気を流すと,内側の表面からクロムなどが溶け出し,触媒として機能するニッケルだけが薄い層を作って残る。
約300℃に加熱してCO2と水素を流したところ,純度が99%以上と実用水準の性能でメタンを合成できた。3日間連続で運転すると,加熱によってニッケルの層の厚さが不均一になって劣化するが,水酸化ナトリウムの水溶液で内側の表面を洗い流すと,新しいニッケル層が表出してメタンを合成する能力が回復した。
装置を開発した大阪大学の森浩亮准教授は「定期的に保守と管理をすることで高い合成能力を保てる。普及すればメタンの合成費用を抑えられるだろう」と話す。今後,企業と協力して装置を大型化する。ごみ焼却施設などに併設すれば,大量のCO2を原料にその場でメタンを合成できる。■
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